業務開始前に制服や作業服などに着替えをしなければならない場合、その時間は労働時間に含まれるのでしょうか?一回の着替え時間は短いですが、出勤するたびに発生するものであるため、トラブルを生まないよう注意が必要です。今回は、労働時間の定義、着替え時間が労働時間に該当する場合、該当しない場合、想定される事例を解説します。
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労働時間の定義を確認しよう
労働時間とは企業の指揮命令下に置かれている時間であり、企業の明示または黙示の指示により従業員が業務に従事する時間であると定義されています。企業の指揮命令下で行われる、資料作成・営業活動・会議などの時間はもちろん労働時間です。加えて、参加が業務上義務づけられている研修の受講や、企業の指示により業務に必要な学習を行う時間も労働時間として扱われます。企業の指揮命令下に置かれているかどうかという判断基準をもとに、従業員の労働時間を正しく管理しなくてはなりません。
着替え時間は労働に含まれる?
企業によっては、業務の前後で着替えが必要な場合もあります。基本的に企業の命令で行われている着替えであれば、労働時間として考えなければなりません。企業側から始業前に着替えなどの準備をするように言われたり、社会人としては当たり前の習慣として業務外の対応に納得してしまっていたりするケースが散見されます。業務上の必要がある着替えにもかかわらず、労働時間に計算しない場合は違法となる可能性があります。
三菱重工長崎造船所事件の判例
三菱重工長崎造船所事件では、船舶の製造や修理などを行う企業に対して、業務に従事している従業員が訴えを起こしました。従業員は始業前に着替えを済ませて所定の場所にいること、消耗品や副資材などの受け渡しを行うこと、粉塵防止の散水を行うことなどが義務付けられていました。従業員は着替えを含む始業前の時間も労働時間であるとし、該当する行動の時間について割増賃金の支払を企業に求めたのです。裁判所は従業員の訴えにある時間は、労働時間に該当すると判断されました。客観的に考えて従業員が企業の指揮命令下に置かれていると判断されれば、労働時間として扱わなければならないのです。
着替え時間が労働時間に該当する事例
就業規則などに明記されている
就業規則やマニュアルに制服などに明記されている場合、着替え時間は労働時間として扱われます。就業規則に「従業員は原則として業務中は貸与された所定の制服を着用しなければならない」と明示されている場合、企業から取るべき行動を命令されていると受け取れるため、労働時間に該当すると考えられます。
企業から黙示の命令がある
企業から黙示の命令がある場合も、着替え時間は労働時間に含まれます。例えば、制服の着用に従わない場合に罰則が設けられていたり、就業規則などで不利益が定められていたりするケースが該当します。他にも、業務成績に反映されて賃金がマイナスされてしまう場合も黙示の命令であると判断されかねません。着替え時間に関する直接的なルールがないように思えても、仕事に影響がある場合は労働時間である可能性が高まるのです。
安全面や衛生面から着替えを必要としている
安全面や衛生面から判断して指定の制服への着用が必要な場合、該当の着替え時間は労働時間に含まれます。看護師は仕事の性質上、衛生面に配慮して業務を行わなくてはなりません。看護服への着替えは安全面と衛生面からも欠かせない行動です。従って、病院側から制服への着替えを看護師は義務づけられていると見なせます。ほかにも、工事現場で働く方、町工場の職人の方なども、該当する可能性があります。
企業が着替える場所を拘束している
企業が着替える場所を拘束している場合は、労働時間として判断されます。制服を着用して通勤することが困難である場合、着替え場所を社内更衣室などで行うよう義務づけている企業も少なくありません。こうした例では、着替え時間は労働時間として取り扱う可能性が高いと認識しておきましょう。
着替え時間が労働時間に該当しない事例
従業員の都合で着替えている
あくまでも従業員の都合で着替えを行っている場合は労働時間には該当しません。例えば、職場までの自転車通勤のため職場でスーツに着替えている、終業後に遊びに行くために着替えているというケースが該当します。これらは企業の指揮命令下ではなく従業員のプライベートを理由とする着替えであるため、労働時間とは認められません。
ジャケットやシャツだけの制服を着用している
ジャケットやシャツといった簡易な制服を着用している場合は、着替え時間は労働時間に含まれません。例えば、飲食店などで白いシャツの着用が必要な職場だと、着替えも非常に短い時間で済ませることが可能です。ジャケットを羽織るだけの場合も同様で、ほとんど時間は拘束されません。こうした着替えの場合は労働時間に含めないと整理されるケースが目立ちます。
通勤時に制服の着用が認められている
自宅から制服を着て通勤しても構わない場合では、着替え時間は原則として労働時間には該当しません。自宅での着替えであれば企業からの命令下になく場所の拘束もされていないためです。ただし、制服の着用が必要なすべての業種で、通勤時の制服着用が認められているわけではありません。必ず就業規則などでルールを確認してから、通勤時の制服着用を検討するようにしましょう。
まとめ
労働基準法により企業は労働時間を適切に管理する義務があります。制服への着替えに代表されるような判断に迷う時間に対しても、正しく労働時間として扱うべきか決めなくてはなりません。着替え時間も企業から指示があり指揮命令下に置かれている場合は、労働時間として扱うことが求められます。習慣や礼儀といった言葉を理由に、労働時間の管理を怠ってはならないのです。正しく労働時間を把握できるように、企業側と従業員の認識を改めて確認してみましょう。