副業・兼業の労働時間を定める、通算ルールが見直しへ

2020年6月3日

イメージ

多様な働き方が認められている現在では、副業や兼業に踏み切る障壁も小さくなっています。副業・兼業を行う労働者の労働時間には、通算ルールというものが定められており、事業場ごとの労働時間を通算して計算します。このルール下では、労働者自身が法定労働時間について把握する必要があるため、勤怠管理を徹底しなくてはなりません。
今回は、副業・兼業における労働時間の原則や通算ルールの意味、通算ルールの今後、通算ルールを適用する際の注意点について解説していきます。

労務管理に便利なクラウド型勤怠管理システムAKASHIの資料はこちら>>

副業・兼業をする際の労働時間の考え方

労働時間の原則

労働基準法第三十二条に、労働者が業務に従事する労働時間の上限が定められています。具体的には以下の内容が記載されており、これらを「労働時間の原則」といいます。

  • 使用者は労働者に休憩時間を除き、週40時間を超えて労働させてはならない。
  • 1週間の各日について、使用者は労働者に休憩時間を除き、1日8時間を超えて労働させてはならない
  • 上記の原則に定められている範囲内の労働時間を「法定労働時間」と呼びます。この原則を超えて業務に従事する場合は法定外労働となるため、使用者である企業は労働者に対して「割増賃金」を支払わなければなりません。これがいわゆる残業代です。

労働時間の「通算ルール」

労働基準法第三十八条には、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」との記載があります。この条文に関し、1948年に厚生労働省から出された通達によって、「本業・副業で使用者(雇い主)が異なる場合にあっても、雇用関係が発生しているならば双方の労働時間を通算する」という解釈がなされるようになりました。これが今日「通算ルール」と呼ばれているものです。
日本では多くの企業が就業規則により兼業・副業を禁止しています。従来の通算ルールでは、労働者の正確な労働時間の把握が難しいためです。例えば副業によって法定時間外労働が発生した場合、割増賃金を支払う義務を負うのは当然ながら副業先の使用者ですが、本業の使用者も労働者の副業先での労働時間を把握していなければなりません。また、フリーランスで副業を行う場合は副業先で被雇用者とならないため、通算ルールの対象外となってしまいます。これも日本で兼業・副業をする人が少ない理由の1つです。

「通算ルール」の今後

「働き方改革」により、厚生労働省では労働者の副業・兼業を推進しています。現実的には運用が難しくなっている「通算ルール」の実情を踏まえ、使用者に対して、副業や兼業者の労働時間に関し、次のような方針が示される見通しとなっています。

  • 労働時間管理の効率化
  • 割増賃金を支払いやすい制度へ
  • 具体的には、労働者自身の自己申告で労働時間の管理を行うようにすることで、企業側の負担を減らします。これまでのような日単位・週単位ではなく、月単位での長い期間で副業・兼業に従事する労働時間の上限を設定し管理することも可能です。使用者ごとに労働時間上限を設定し、その範囲内での管理を行えば、労働時間管理を格段に効率化させることができます。
    総務省の「就業構造基本調査」によれば、副業・兼業を希望する労働者は年々増加傾向にあります。スキルアップ・資格の活用・新たな収入源を確保するためなど、その理由はさまざまです。しかし従来の通算ルールでは、他の企業での就労状況を正確に把握することは非常に困難でした。そこで現実的な方策として、雇用契約を結んだ順序やどちらの使用者の元で法定外労働時間が発生したかではなく、労働者からの自己申告を重視する制度へ見直される見通しとなっています。
    これにより、労働者は離職することなく他の仕事に従事することが可能になります。本業だけでは得られないスキル・経験を積み所得を増やしつつ、労働者自身が主体的なキャリア形成を行っていける点は大きなメリットといえるでしょう。
    労働者が副業に従事することで新たなスキルや情報、コネクションを手に入れることは、使用者にとってもメリットがあります。労働者が社外で多くを学び優秀な人材へと育っていくことで、彼らが本業での業績にも好影響を与えるキーマンとなる可能性が高まるのです。

割増賃金を支払う必要がある事例

本業に加えて副業や兼業をした場合でも労働時間は通算されるようになり、時間外労働などが発生する場合は割増賃金の支払いが必要です。割増賃金が発生する主な事例は以下のとおりです。

  • 時間外労働
  • 本業と副業や兼業の時間を通算して、1日8時間・週40時間の法定労働時間を超えていたら、25%以上の割増賃金の支払いが必要です。例えば、本業先で8時間働き副業先で2時間働いた場合、副業先の企業は従業員に対して割増賃金を支払わなければなりません。なお、本業先でも法定労働時間をオーバーすると知りながら働かせた場合は、割増賃金の支払いが生じます。なお、1ヶ月の労働時間が60時間を超えると、50%以上の割増賃金が設定されているので注意しましょう。中小企業についても2023年4月1日より、50%以上の割増賃金が適用されます。

  • 休日出勤
  • 法定休日に従業員を勤務させると、35%以上の割増賃金が発生します。法定休日とは労働基準法で定められている、企業が必ず設けなければならない休日です。週休2日制で土日が休みの企業では、日曜日が法定休日のケースが多くなります。

  • 深夜労働
  • 深夜に従業員を働かせたら、25%以上の割増賃金を支払わなければなりません。深夜とは22時から5時までの労働を指します。なお、時間外労働に加えて深夜にも働かせた場合は、割増率が加算され50%以上の割増賃金の支払いが必要になるので注意しましょう。

関連記事:

見直し後の「通算ルール」を適用する際の注意点

労働者による申告がベースとなる

見直し後の通算ルールでは、労働者自身が一定期間内の総労働時間を管理し、上限に近づいた段階でしっかりと使用者へ報告することが大前提となっています。しかし、労働者の判断次第では就業時間が法定労働時間を大幅に逸脱し、いわゆる「過労死ライン」を超えて働くことも可能となってしまいます。また、副業・兼業を行っていること自体を隠してしまう恐れがある点も懸念の1つです。
そのため、企業は秘密保持義務・競業避止義務と同様に、総労働時間・健康状態の管理についても「副業・兼業を行う上での義務」として周知し、定期的に注意を促していく必要があります。

企業の運用しやすさを重視した制度設計

新たな「通算ルール」では、企業側の労務管理にかかる負担を減らすことに重点が置かれています。なぜかというと、この制度の見直し自体が「働き方改革」をするための布石という位置付けにあるためです。背景には、少子高齢化による深刻な人材不足や、民間平均給与の格差という社会問題があります。「企業が運用しやすい制度設計にすることで労働者の副業・兼業を推進し、こうした社会問題を解決しよう」というのが、新たな通算ルール策定の目的となっているのです。
このように、新たな通算ルールは労働基準法の主目的である「労働者の保護」とは少しずれが生じている制度ともいえます。そのため、労働者の保護を目的とした他制度との兼ね合いや労務上の懸念点に関し、事前にしっかりと検討を行っておくことが重要です。

関連記事:

まとめ

時代の変化に伴い、労働者の中では副業・兼業を望む声が大きくなりつつあります。従来の制度では、労務管理への負担がネックとなり多様なニーズに対応することが難しい面が多々存在しました。今後は「通算ルール」が見直され、副業・兼業を行う労働者自身が総労働時間を管理し、企業側の労務管理に対する負担軽減が図られることとなります。労務の現場においては、正式な法整備が済む前にしっかりと情報収集を行い、さまざまなケースを想定した対応を定めておくことが大切です。

クラウド型勤怠管理システム「AKASHI」
勤怠管理システムを導入することで、効率的かつ確実に労働時間を管理することが可能となります。ソニービズネットワークス株式会社が提供するクラウド型勤怠管理システム「AKASHI」は、36協定設定、年休管理簿や労働時間の把握など、あらゆる法改正や複雑な就業ルールに対応する機能をフレキシブルに対応します。15年以上のノウハウを活かした充実のサポート体制で導入後も安心です。
今ならAKASHIのサービスを30日間無料でお試しいただける無料トライアルを実施していますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

「AKASHI」の資料・事例集を
ダウンロード >
tag

勤怠管理システム
「AKASHI」

カンタン登録ですぐにお試し可能です

30日間無料 全機能を体験できます 無料トライアル 今すぐ試してみる 30日間無料 全機能を体験できます 無料トライアル 今すぐ試してみる

活用方法や事例をご紹介

資料・事例集をダウンロード

毎日開催中。まずは聞いてみる

個別オンラインデモ