アンダーマイニング効果とは、金銭など外部からの報酬や動機付けが、楽しさや興味といった内発的な動機付けを低下させる現象を指します。アンダーマイニング効果が発生し、従業員のモチベーションが低下すると、離職率が増加する可能性があります。そこで企業は、エンハンシング効果を引き起こす必要があります。エンハンシング効果とは、アンダーマイニング効果と反対の意味を持つ効果であり、外発的動機づけが内発的動機づけを高め、自然とモチベーションが向上していくという効果を指します。
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アンダーマイニング効果とは
「アンダーマイニング効果(undermining effect)」とは、アメリカの心理学者であるエドワード・L・デシ、マーク・R・レッパーの両氏によって提唱された概念です。日本語では「抑制効果」や「過正当化効果」などとも呼ばれ、内発的な動機付けから行ってきた活動に外発的な動機付けが影響を及ぼすことで、当該活動へのモチベーションが低下してしまう現象を指します。例えば、楽しみや興味、達成感など内発的な動機で行っていた創作活動が、報酬を得るという外発的な動機に置き換わった結果、純粋に楽しめなくなってしまった、という話を聞いたことがある方も多いかもしれません。
アンダーマイニング効果が起こる原因
アンダーマイニング効果は、さまざまな要因によって引き起こされます。例えば、下記の3つの要因はアンダーマイニング効果を引き起こす代表的な原因です。
- 目的がやりがいから報酬の獲得に変わってしまう
- ノルマや締切に追われている
- 自己肯定感が低下し自発的ではなくなる
やりがいや目標の達成を目指して行動していたところ、一度でも報酬を受けるとそれ自体が目的になってしまい、報酬がなくなった途端にモチベーションが低下してしまうケースも少なくありません。また、ノルマや締切の設定は一時的にモチベーションを高めますが、いつの間にかそれらの遵守が目的に置き換わり、活動への意欲が低下する恐れがあります。さらに、自己肯定感が低下し自発的ではなくなると、モチベーションが著しく低下するため注意が必要です。内発的動機が目的の場合は自発的に行動できますが、外発的動機によって強制されると欲求が叶わず、次第にやる気が失われていきます。
エンハンシング効果で対抗しよう
モチベーションを著しく低下させるアンダーマイニング効果に対し、モチベーションを向上させる現象を「エンハンシング効果(enhancing effect)」といいます。具体的には、外発的な動機によって姿勢や考え方に変化が生じ、内発的な動機が強化される現象です。例えば、尊敬している上司や先輩から褒められると、部下は自己肯定感が高まり、モチベーションが向上します。もっと評価されたいという思いが強まった結果、期待以上の成果を実現するケースも少なくありません。リーダーシップを発揮するには、アンダーマイニング効果ではなく、エンハンシング効果を積極的に引き出す必要があります。ただし、エンハンシング効果を取り入れるには、上司と部下の相性や関係性に配慮した人材配置が必要です。
アンダーマイニング効果の問題点
生産性が低下する
アンダーマイニング効果の影響下では、内発的な動機付けが希薄になり、自発性が失われます。自発的でない状態では、いわゆる「やらされてる感」が強まるため、モチベーションが低下してしまうことも珍しくありません。モチベーションが低いとやりがいが低下し、業務がルーティーン化するため、生産性が低下してしまいます。結果として業務に取り組む姿勢が損なわれ、業務品質の低下も避けられません。業務品質が下がった結果、最終的には企業価値の低下にもつながるため注意が必要です。
職場の人間関係が悪化する
アンダーマイニング効果の影響で内発的な動機付けが希薄になると、職場の人間関係が悪化する恐れがあります。なぜなら、アンダーマイニング効果によってやりがいや達成感が失われると、ストレスや不満が蓄積しやすくなり、職場の雰囲気も悪くなりやすいからです。活動の目的が報酬や評価の獲得に置き換わった結果、劣等感や嫉妬が生まれたり、競争心や対立感情が芽生えたりするケースも少なくありません。その結果、メンバー間のコミュニケーションや協調関係が失われ、職場の一体感が低下する恐れがあります。
離職率が上がる
アンダーマイニング効果が蔓延している職場は、仕事に対する満足度やモチベーションが低くなりがちです。そのような職場環境は不平不満が溜まりやすいため、より良い環境を求めて転職志向が高まる可能性があります。また、報酬や評価に過度に固執することで、価値観や目標に則した行動を取りにくくなるケースも少なくありません。結果として、自己実現やキャリア構築に支障をきたす可能性があります。転職志向の高まった従業員は、他の魅力的な職場でキャリアパスの実現を目指す可能性があり、離職率が高まる恐れもあるため注意が必要です。
アンダーマイニング効果を防ぐためのポイント
行動や努力を褒める
アンダーマイニング効果を防ぐには、エンハンシング効果を積極的に引き出すことが重要です。具体的には、行動や努力を褒めることが挙げられます。ただし、やみくもに褒め過ぎると効果が薄れる可能性もあるため、タイミングや頻度には注意が必要です。褒める場合は、抽象的ではなく具体的な言葉を使って、何が良かったのかを端的に伝えましょう。具体的な言葉は、相手の自信や自己肯定感を高めるのに役立ちます。また、最終的な結果だけでなく、過程や努力を正当に評価し、褒めることも大切です。
ほかの従業員が居る場所で称賛する
エンハンシング効果を引き出すために褒める場合は、ほかの従業員がいる場所で称賛すると、より効果的です。例えば、職場でほかの従業員やお客様の前で強く叱責されて、嫌な気持ちや落ち込んだ気持ちになったことがある方も多いかもしれません。他者の前で叱責されて嫌な気持ちになったり落ち込んだりするのは、自尊心が傷付けられるからです。反対に、他者の前で誉め言葉をかけて称賛することで、自尊心が満たされモチベーションが向上します。
行動を強いられていると感じさせないようにする
行動を強いられていると感じさせないようにすることも、アンダーマイニング効果を防ぐための重要なポイントです。そもそも人間は、他者から強要されるのを嫌う傾向にあります。楽しみや好奇心から自発的に行ってきた活動も、他者から強要された途端に興味を失ってしまうようなケースも珍しくありません。「やらされてる感」が強くなるとモチベーションが低下するため、「自分がやりたいからやっている」という意欲を継続させることが大切です。モチベーションを高めるため金銭的な報酬を与えても、内発的動機付けを弱めてしまう恐れがあります。内発的動機付けを強めるには、言語的な報酬を定期的に与えることが効果的です。
まとめ
今回はアンダーマイニング効果について解説しました。アンダーマイニング効果というのは、金銭や表彰など外部からの報酬や動機付けが、楽しさや好奇心といった内発的な動機付けを低下させる現象のことです。アンダーマイニング効果が蔓延すると、生産性が低下したり離職率が上昇したりします。言語的な報酬によってエンハンシング効果を引き出し、アンダーマイニング効果に対抗しましょう。