長時間労働の削減を実現! 変形労働時間制とは

2017年3月24日

長時間労働削減に役立つ労働時間制度として、「変形労働時間制」があります。変形労働時間制とは、特定の条件のもとで一定の期間について労働基準法上の労働時間の規制を解除することを認める制度であり、業務に繁閑のある業種や職種で活用した場合、労働時間の削減や残業代の抑制といった効果を得ることができます。
今回は、変形労働時間制の仕組みや導入方法について解説します。

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変形労働時間制とは

変形労働時間制とは、一定の単位期間を平均して週あたりの労働時間が40時間を超えないことを条件として、特定の日または週に法定労働時間を超えて労働者を労働させることができる制度です。

労働基準法では、原則として、労働時間の上限を1日8時間、1週40時間と定めており、これを「法定労働時間」といいます。しかし、業種や職種によっては「夏は繁忙期だが冬は閑散期である」「月末月初は忙しいが月半ばは比較的余裕がある」、など一定期間を通して業務量が著しく変動することがあります。

このような場合に変形労働時間制を活用することで、繁閑に応じて所定労働時間を調整することが可能となります。繁忙期の所定労働時間を長く設定し、閑散期の所定労働時間を短くすることで、労働時間の短縮や残業代の抑制といった効果が得られます。

変形労働時間制は、運用する期間によって「1ヶ月単位の変形労働時間制」「1年単位の変形労働時間制」「週単位の非定型的変形労働時間制」の3種類があり、導入のための要件等がそれぞれ異なります。労働者の健康確保のためにも、それぞれの要件をきちんと把握したうえで、正しい制度運用をしていくことが必要です。

1ヶ月単位の変形労働時間制

1ヶ月単位の変形労働時間制は、1ヶ月以内の週平均労働時間が40時間を超えないように労働日や労働日ごとの労働時間を設定することで、特定の日や週について法定労働時間を超えることが可能となる制度です。

1ヶ月単位の変形労働時間制は、月末月初に繁忙期がくるなど、1ヶ月の中で忙しい時期と忙しくない時期がはっきり分かれているような業種や職種に適した制度だといえます。

1ヶ月単位の変形労働時間制は、就業規則に規定するだけで導入することが可能であり、他の変形労働時間制に比べて比較的簡単に導入することができます。

就業規則に定めるべき事項

1ヶ月単位の変形労働時間制を導入するためには、就業規則で下記の事項について定めることが必要です。

  • 対象労働者の範囲
  • 対象期間および起算日
  • 労働日および労働日ごとの労働時間
  • 労使協定の有効期間

特に、労働日や労働日ごとの労働時間については、シフト表などであらかじめ具体的に定めておくことが必要です。また、決定した労働日や労働時間を任意で変更することはできないことにも注意しましょう。

労働時間の算定方法

1ヶ月あたりの労働時間の上限は、各月の日数によって以下の表のとおりになります。

表はスライドできます

月の暦日数 28日 29日 30日 31日
上限時間 160.0時間 165.7時間 171.4時間 177.1時間

就業規則において労働日や労働日ごとの労働時間を定める際には、この上限を超えないように設定することが必要です。

時間外労働に対する割増賃金の支払い

変形労働時間制の場合でも、時間外労働が発生することがあります。この場合、時間外労働に対する割増賃金の支払いが必要です。1ヶ月単位の変形労働時間制において、時間外労働となる時間は以下のとおりです。

  1. 1日については、8時間を超える所定労働時間を設定した日はその設定した時間を、それ以外の日は8時間を超えて労働した時間
  2. 1週間については、40時間を超える所定労働時間を設定した週はその時間を、それ以外の週は40時間を超えて労働した時間(①で時間外労働となった時間は除く)
  3. 対象期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間(①、②で時間外労働となった時間は除く)

1年単位の変形労働時間制点

1年単位の変形労働時間制は、1ヶ月を超えて1年以内の週平均労働時間が40時間を超えないように労働日や労働日ごとの労働時間を設定することで、特定の日や週について法定労働時間を超えることが可能となる制度です。

1年単位の変形労働時間制は、季節単位で繁閑の差がはっきりしているような業種や職種の場合に適した制度だといえますが、特定の時期の労働時間が集中的に長くなるなど労働者に与える影響が大きいことから、労使協定の締結が必須になることや労働時間の制約があることなど、1ヶ月単位の変形労働時間制よりも導入のための要件が厳しくなっています。

労使協定で定めるべき事項

1年単位の変形労働時間制を導入するためには、労使協定で下記の事項について定めたうえで、所轄の労働基準監督所長に届け出ることが必要です。

  • 対象労働者の範囲
  • 対象期間および起算日
  • 特定期間
  • 労働日および労働日ごとの労働時間
  • 労使協定の有効期間

「特定期間」とは、対象期間中において特に繁忙な時期として定めることができる期間のことをいい、以下で説明する「連続して労働させることができる日数」の限度に関わってきます。

労働時間の限度

1年単位の変形労働時間制の場合、労働日や労働日ごとの労働時間について以下のような限度があります。

対象期間における労働日数の限度

1年単位の変形労働時間制の場合、対象期間における労働日数の限度は、1年あたり280日です。ただし、対象期間が3ヶ月未満の場合は労働日数の限度はなく、3ヶ月を超え1年未満である場合は次の計算式で算出した日数が労働日数の限度となります。

  • 労働日数の限度=280×(対象期間の暦日数÷365)

対象期間における1日および1週間の労働時間の限度

1年単位の変形労働時間制の場合、1日の労働時間の限度は10時間、1週間の労働時間の限度は52時間とされます。ただし、対象期間が3ヶ月を超える場合は、次の2点を満たすことが必要です。

  • 週の労働時間が48時間を超える週を連続させることができるのは3週まで
  • 対象期間を3ヶ月ごとに区切った各期間において、週の労働時間が48時間を超える週は、週の初日で数えて3回まで

対象期間および特定期間における連続して労働させる日数の限度

対象期間において連続して労働させることができる日数の限度は6日とされます。ただし、特に繁忙な時期として「特定期間」を設定した場合は、連続して労働させることができる日数の限度は「1週間に1日の休みが確保できる日数」となります。

例えば、月曜から一週間が始まる企業の場合、特定期間において一週目の月曜日と二週目の日曜日を休みにすることで、最長12日間連続して労働させることができます。

時間外労働に対する割増賃金の支払い

1年単位の変形労働時間制においても、先述の1ヶ月単位の変形労働時間制と同様に以下の時間が時間外労働となり、割増賃金の支払いが必要となります。

  1. 1日については、8時間を超える所定労働時間を設定した日はその設定した時間を、それ以外の日は8時間を超えて労働した時間
  2. 1週間については、40時間を超える所定労働時間を設定した週はその時間を、それ以外の週は40時間を超えて労働した時間(①で時間外労働となった時間は除く)
  3. 対象期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間(①、②で時間外労働となった時間は除く)

割増賃金の清算

退職や異動、途中採用などにより1年単位の変形労働時間制を受けて労働した期間(実労働期間)が対象期間よりも短い労働者について、実労働期間を平均して週あたり40時間を超えて労働していた場合は、割増賃金の清算をすることが必要です。

割増賃金の清算については、退職や異動の場合はその時点で、途中採用の場合は対象期間が終了した時点で、次の計算式を用いて算出した時間について割増賃金を支払います。

  • 割増賃金を支払う時間=(実労働時間)-(労働基準法に基づく割増賃金の支払いを要する時間)-{40×(実労働期間の暦日数÷7)}

週単位の非定型的変形労働時間制

週単位の非定型的変形労働時間制とは、1週間単位で毎日の労働時間を弾力的に定めることができる制度であり、労働者が30人未満の小売業・旅館・飲食店などの場合に限って導入することができます。

週単位の非定型的変形労働時間制を導入するためには、労使協定において1週間の労働時間を40時間以下に定めるとともに、40時間を超えて労働させた場合には割増賃金を支払う旨を定めたうえで、所轄の労働基準監督所長に届け出ることが必要です。

週単位の非定型的変形労働時間制の場合、1週間の労働時間が40時間以内であれば、1日10時間まで労働させることができます。

就業規則に規定しましょう!

変形労働時間制を導入する場合には、制度について就業規則に規定することが必要です。就業規則の作成方法については、下記のURLからダウンロードできる「お役立ち資料」で詳しく説明していますので、ぜひ参考にしてください。

まとめ

変形労働時間制を活用することで、業務の繁閑に応じて労働時間を適切に配分できるようになり、長時間労働の削減が期待されます。一方、企業が制度の運用を適切に行わない場合、労働時間が逆に長くなるなど労働者に大きな負担を強いることになりかねません。

変形労働時間制を実施する際には、必要な手続きをきちんと踏んだうえで、労働時間の管理を適切に行いながら制度を運用していくことが大切です。

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