キャリア自律とは、従業員が自らのキャリアについて主体的に考え、自らキャリア形成に取り組んでいる状態のことをいいます。キャリア自律の概念は1990年代後半から2000年代にアメリカで確立されたといわれており、企業における人材育成や採用の場面でも参考にされることが多い考え方です。この記事では、キャリア自律の概要、注目されるようになった背景、メリット・デメリット、支援のポイントについて解説していきます。
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キャリア自律とは
キャリア自律について、産業・組織心理学会では「自己認識と自己の価値観、自らのキャリアを主体的に形成する意識をもとに、環境変化に適応しながら、主体的に行動し、継続的にキャリア開発に取り組んでいること」と定義しています。従来、キャリア形成というと、所属企業内における実務や研修を通じて形成されていくものと認識されてきました。しかし、キャリア自律の概念では、「自身のキャリア形成に対し、主体的かつ継続的に取り組んでいく姿勢」が重要なポイントとなっています。つまり、個人のキャリアを企業主導の異動・昇進やジョブローテーションに任せるのではなく、自らの意思や継続的な学習によって積極的に形成してこそ、キャリア自律度は高まるのです。
自立と自律の違い
「自律」と「自立」は、どちらも「自己を確立している」という意味でよく似た言葉ですが、個人の状態を説明する場合には明確な違いがあります。まず、「自立」の状態にある個人は、自分の意見を持ち、主張することができますが、そこに自分以外の世界との協調という要素は含まれず、単なる自己主張や自己満足で終わってしまう可能性が否定できません。
一方、「自律」の状態にある個人は、確固たる意志を持ちながらも、自己の内面世界と外の世界との調整を図ることが可能です。周囲のニーズに合わせた自身の能力開発に取り組みながらも、その先に自己実現の目標を据えられるかどうかが、自律と自立の大きな違いになっています。
以上を踏まえると、キャリア自律は、起業家精神や独立心、自分探しといった特別な姿勢を求めるものではないということがわかります。目の前の業務に果敢にチャレンジするなかで、そこから積極的に学び、自身のキャリアの糧とする姿勢が大切といえるでしょう。
キャリア自律が注目される背景
かつて、新卒一括採用と終身雇用が一般的だった時代は、従業員のキャリア形成は企業が取り組むべき課題でした。一つの企業組織のなかで円滑な人員配置を行っていくためには、企業が提示するキャリアを受け入れる従業員の方が扱いやすいという側面もあり、キャリア自律が声高に叫ばれることはありませんでした。
しかし、長きに渡る経済不況により終身雇用制度が崩壊するとともに、転職市場の発展が雇用の流動性を高めました。近年では、同じ企業で生涯働き続ける人や働き続けたいと考える人は徐々に少なくなっています。そのため、キャリア形成に関しても、企業に頼るのではなく、従業員が責任を持たなければならなくなりました。
また、自身の将来をしっかりと見据え、必要な知識を進んで吸収していく従業員は、企業側にとっても有用な人材である場合が多いこと、個々のライフスタイルに合わせて働きたい従業員が増えていることなどもあり、キャリア自律の考え方は徐々に浸透しつつあるといって良いでしょう。
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キャリア自律度が高まることのメリットと注意点
職場全体の労働意欲が向上する
キャリア自律度の高い人材は、目の前の課題を自分の成長のチャンスととらえることができるので、仕事のやりがいや充足感を得やすく、前向きな姿勢で仕事に取り組めます。そのため、キャリア自律度の高い人材が多い職場は、ポジティブな雰囲気が醸成されやすく、全体的な労働意欲も高い傾向にあります。
優秀な人材が活躍できる
業務全般において指示に従わなければならない傾向が強い職場の場合、従業員の個性や特有の才能は見出されにくいといえます。しかし、従業員それぞれの価値観を尊重し、思い描くキャリア形成を応援する職場は、キャリア自律度の高い優秀な人材が集まりやすいでしょう。キャリア自律度が高い人材は、総じて努力家であり、知識の吸収を厭わず、自学自習の習慣を身に付けている傾向があります。彼らにモチベーション高く業務に取り組んでもらうためには、ある程度の裁量を与えたうえで、自由な発想を活かせる体制づくりが必要です。
突然の転職には注意
キャリア自律をしているということは、労働市場における自身の価値を認識するということでもあります。キャリア自律度が高く、肯定的な自己評価を持っている人の場合、チャレンジの場を転職先に求めることは大いに考えられます。現在の職場に大きな不満がなくても転職を決断してしまうことも少なくないため注意が必要です。こういった人材流出のリスクを少しでも減らすため、企業は日頃から従業員の話に耳を傾け、できる限り希望通りのキャリア形成を自社内でできるよう支援することが大切です。組織が求める人材像や組織目標と、従業員の個人目標のすり合わせを行ったり、社内公募制度など、従業員の希望が実行に移せる機会を設けたりすることが大切です。
キャリア自律支援を成功させるポイント
「従業員自らの意思に基づきキャリア形成を行っていく」というように、キャリア自律には従業員の「個」を尊重する意味合いが含まれます。ただし、欧米のように最終学歴の専攻学科に準じた職に就くことが多い就職環境とは異なり、日本では「未経験」かつ「職域を限定しない」採用が行われていることを忘れてはいけません。ただ「キャリア自律をしなさい」と従業員に任せっきりにするのではなく、企業による足場づくりが必要といえるでしょう。
企業内でキャリアプログラムを用意する
従業員が日頃から自身のキャリア形成を考えながら中長期スパンで成長できるプログラムを用意することが大切です。かつて行われていた企業主導のキャリア形成と同義に聞こえるかもしれませんが、キャリア自律を主眼に置いたプログラムでは、従業員の意思と選択の自由が尊重されます。社内公募制・社内FA制度なども取り入れながら、自社内において可能な限り自由なキャリア形成ができる環境を整えましょう。定期的なキャリア面談のほか、専門のキャリアコンサルティングが受けられる機会を設けると効果的です。
メンター制度を導入する
新入社員の育成や早期離職の防止を目的に、メンター制度を導入している企業が増えています。メンターとは、実務の指導役とは別に、精神面や将来のキャリアについて相談に乗れる役割を指します。一般にキャリア自律は、ある程度実務経験を積み、自身の適性などを把握したうえで意識できるものです。そのため、新入社員から若手の間は、自身のキャリア自律を考えるための準備期間ととらえましょう。メンターは新入社員の話を聞きながら、「こうしたらどうか」「こういう道もある」といった、自社の業務を通じて可能性を広げられることが大切です。
学習の機会を提供する
キャリア自律では、各個人が目標に向かって自主的に学習していく姿勢が重要です。しかし、企業内においては、しばしば業務が多忙になったり、急な出張・転勤を承諾しなければならなかったりと、思うように学習の機会がつくれない可能性があります。そのため、従業員が望むスキルや知識などが学べる機会を、企業側でも提供することが大切です。業務に関連することはもちろん、直接的に関係しない領域であっても、思わぬ能力や興味が開発されるきっかけになるかもしれません。
まとめ
キャリア自律は、労働者の「個」としての自立と同義と認識されることが少なくありません。たしかに、「個」の価値観を尊重し、自身のキャリア形成に主体的に取り組んでいく姿勢は、キャリア自律度を高めるためには大切です。しかし、キャリア自律は、従業員の能力に可能性を見出し、最大限に発揮させようとする企業の環境が整ってこそ初めて実現するといっても過言ではありません。従業員と企業が互いに信頼し合い、期待を込めた状態が維持できてこそ、従業員のキャリア自律度は高まるのです。
自社の事業を発展させる豊かな人材を獲得するためにも、キャリア自律できる職場環境を構築しましょう。