出張時の移動は労働時間に含まれる? 出張中の労働時間の取り扱いについて解説

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移動時間の長さや労働のタイミングがそれぞれ異なる出張は、労働時間の取り決めが非常に困難です。どこまでを労働時間に含めるのかといった判断を下す際には、その時間が使用者の指揮命令下にあるかどうかを考えることが重要です。今回は、法律上での労働時間の定義から、それを元にした出張時の労働時間の扱い方、残業や休日労働の処理について解説していきます。

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労働時間とは

労働時間は労働基準法では明確に定義されていませんが、行政解釈では「労働時間とは、使用者の指揮命令下にある時間のことをいい、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間にあたる」とされています(2017年1月20日基発0120第3号)。では、出張を行った場合はどこまでが労働時間になるのでしょうか。以下でそれぞれのケースについて見ていきましょう。

出張時の労働時間の扱い方

出張とは、法令上および行政解釈上の定義は定められていませんが、一般的には、特定の用務の遂行のために通常の勤務地とは異なる遠方の用務地へ赴くことを指します。出張中に労働者が過ごす時間には、移動時間や出張先での時間など様々なものがありますが、どの時間が労働時間として扱われるのでしょうか。

ケース1:移動時間

まず、出張中の移動時間については、行政解釈において、物品の監視等の特定の用務を使用者から命じられている場合のほかは労働時間として扱う必要はないとされています(1948年3月17日基発461号等)。また、裁判でも、「出張の際の往復に要する時間は、労働者が日常の出勤に費やす時間と同一性質であると考えられることから、その所要時間は労働時間に算入されない」とした裁判例(日本工業検査事件・横浜地裁1974年1月26日判決)や、「移動時間は労働拘束性の程度が低く、これが実労働時間に当たると解するのは困難」とした裁判例(横河電機事件・東京地裁1994年9月27日判決)があります。このように、出張中の移動時間に関しては、基本的に移動時間は労働時間にはあたらないと考えていいでしょう。
しかし、上の行政解釈にもあるように、物品の監視等の特定の用務を使用者から命じられている場合は、使用者の指揮命令下にあると判断されます。例えば、移動中に物品や現金、有価証券、機密書類等の管理を指示されている場合や、上司と出張先での業務内容の打ち合わせをしている場合、上司から指示された資料を作成している場合などは、すべて労働時間としてみなされることになります。
なお、出張の移動時間が労働時間にあたらないとしても、休憩時間とは違って一定の拘束時間であることは否定できません。事実、上記の裁判例とは異なり、移動時間は業務に付随するものであることから労働時間に含まれるとした裁判例(島根県教組事件・松江地裁1971年4月10日判決)も存在します。そのため、会社によっては移動時間を労働時間とはみなさないものの、出張の手当を設けているところもあります。
また、移動時間は労働時間とみなされないため、通常、みなし労働時間に含めることができません。しかし就業規則の規定によって、事業場外みなし労働時間として、当日の所定労働時間分の労働を行ったとみなすことは可能です。ただし、労働時間の管理者である上司が同行している場合は、法的にそもそも事業場外みなし労働時間制を適用することができないため、注意が必要です。

ケース2:出張先での仕事時間

用務地に着いた後の、商談や会議などに費やされる時間については、使用者の指揮命令下にあることが明確ですので労働時間に含まれます。

ケース3:宿泊先での書類整理や書類作成

ホテル等の宿泊先で書類整理や書類作成を行った場合、これらも会社に指示された業務であることから、その時間は使用者の指揮命令下にあるものとして労働時間に換算することができます。

残業や休日労働の処理について

残業の処理について

残業には、早出残業、残業、深夜残業の3種類があるため、それぞれについて場合分けして説明します。

  • 早出残業
  • 早出残業とは、始業時刻前に労働を行うことを指します。始業時刻前に出張先に出発したとしても、その移動時間中に使用者の指揮命令下にない場合は労働時間にはあたらず、早出残業代は発生しません。しかし、早出残業時間にあたる時間に用務地に着いて仕事をしている場合や、移動時間中でも使用者の指揮命令下にあると判断される場合は、早出残業を行っているとみなされ、早出残業代が発生します。

  • 残業
  • 所定の就業時間を過ぎて働くことを残業といいます。出張先で残業を行った場合、通常の社内での勤務時と同様に残業代が発生します。残業にあたる時間に使用者の指揮命令下にある状態で移動している場合も残業をしているとみなされます。残業代の支払いについては、もし出張手当がある場合に残業代が手当に含まれないのであれば、残業代をそのまま支払う必要があります。一方、出張手当に残業代が含まれるとされている場合には、実際の残業時間で計算した残業代が出張手当の額を超えるときに限りその差額を追加で支払う必要がありますが、超えない場合は残業代を支払う必要はありません。

  • 深夜残業
  • 22時以降に残業することを深夜残業といいます。出張先で22時以降に残業する場合、通常の社内での勤務と同様に深夜割増手当が発生します。この場合も、使用者の指揮命令下にある状態であれば移動時間も労働時間とみなされ、深夜残業代が支払われることになります。

休日労働の処理について

出張中であっても、使用者の指揮命令下にある場合は労働していると判断されるため、労働基準法に定められている通り、通常の勤務と同じように毎週少なくとも1回、もしくは4週で4日以上の休日を与える必要があります。そのため、長期の出張をする場合には、休日を作るように予定を考える必要があります。仕事の指示をせず休息が可能な日として考えることができる場合は休日扱いになりますが、もし出張中の休日にあたる日に具体的な業務を行うよう指示した場合には、休日労働を指示したという扱いになり、残業手当の支払いをする必要が生じます。
それでは、休日に出張に出発したり帰着したりする場合はどのようになるのでしょうか。この場合も移動時間の判断基準と同様で、使用者の指揮命令下にある場合以外は労働時間としては扱われないことになります。したがって休日に用務地へ前入りする場合などは通常は労働時間が発生しませんが、その休日に会議や会合等がある場合はもちろん休日労働扱いになります。

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まとめ

出張期間中には、移動時間や残業の時間、休日と様々な時間がありますが、どの時間が労働時間となるかの判断については、大原則として「使用者の指揮命令下にあるかどうか」を考えることが重要です。その時間が会社に指示されたことを行う時間であるかどうかを考え、指示されている場合は労働時間とみなし、そうでない場合は基本的には労働時間ではないと考え、適切に処理するようにしましょう。

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