厚生労働省の調査によると、新規学卒就職者のうち、高卒者では約4割、大卒者では約3割が就職後3年以内に離職しているという結果が出ています。決して少なくないコストをかけて従業員を採用したにもかかわらず、数年で辞められてしまっては大きな損失です。このようななか、新入社員が職場に馴染むのを助け、長く定着してもらうための施策として、オンボーディングと呼ばれる取り組みが注目されています。本記事ではオンボーディングの概要やオンボーディング実施のポイントなどについて解説します。
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オンボーディングとは
オンボーディングとは、採用した従業員が会社の一員として馴染むための受け入れ支援を指します。「新人研修」のほうが馴染みある言葉かもしれませんが、オンボーディングと新人研修は似て非なるものです。
新人研修やOJTは、業務に必要なスキルを学び、一人前を目指すための訓練としての要素が強いといえます。それに対しオンボーディングでは、企業全体の文化や考え方を理解し、組織の在り方、評価基準など、会社組織で働くにあたって必要となる情報や価値を学ぶことが大切とされます。
大抵の業務は練習すれば身に付きますが、こうした会社組織における適切なコミュニケーション方法や仕事の進め方は、周囲の思いやりや協力なしにはなかなかつかむことが難しいでしょう。実は、就職後にミスマッチを感じて辞めていく人には、このような良好なコミュニケーション機会の不足や、組織における価値観の共有に不備がある場合が多いといわれています。そのため、適切なオンボーディングを実践することが、早期離職を防ぐカギになるとして、多くの企業で注目されているのです。
オンボーディングのメリット
オンボーディングを正しく行うことで、新入社員の不安感や緊張感を軽減し、組織のなかでいきいきと活躍する人材を育成することができます。業務を進めるにあたっては、社内ルールや人間関係、企業特有の価値観などを知らなくてはなりません。これらを一つ一つ学ぶことは、一見回り道のように感じますが、企業の一員としての意識を芽生えさせるためには重要です。適切なオンボーディングの実施は、結果的に人材の早期戦力化にも寄与するといって良いでしょう。
また、独立行政法人労働政策研究・研修機構によると、入社から1年未満から3年未満で離職した従業員の離職理由には、「人間関係がよくなかった」「仕事が自分に合わなかった」という回答が多くなっています。これらは適切なオンボーディングを実施することである程度解決できると考えられます。新入社員の定着率を向上させるためにも、オンボーディングの効果は大きいです。
オンボーディングの注意点
オンボーディングを実施するにあたっては、新入社員が関係する部署だけでなく、社内全体が協力することが大切です。例えば、いくら丁寧な教育研修制度を用意している企業でも、新入社員が会話する相手が直属の上司や教育担当の先輩だけに限られている、といった場合は少なくありません。また、業務を覚える研修は行われるものの、企業全体の理念や歴史については学ぶ機会がなかったり、他部署で何をやっているのかまったく知らないままだったりすることもあるでしょう。オンボーディングの実施には、できるだけ多くの部署や人員が関わり、実務に関係あることから会社全体に関わることまで、バランス良く学べる環境を整えることが大切です。
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オンボーディング実施のポイント
信頼関係を築く
新入社員に教えなければならないことは山ほどありますが、知識をただ詰め込むだけでは、いつまでも組織の一員である実感は持てないでしょう。まずは所属部署をはじめ、普段は関わらない部署や役員など、多くの従業員との交流の機会をつくりましょう。組織全体で新入社員を歓迎する雰囲気づくりは、オンボーディングには重要です。
また入社直後は、研修時間のほかにも、十分なコミュニケーションがとれる時間を設けましょう。コミュニケーションの相手は教育担当者を中心に、さまざまな人と関われることが望ましいです。人と人がすぐに親密な関係を築くのは困難ですが、信頼関係が生まれやすい環境を構築することはできます。困ったことがあれば、すぐに誰かに相談できる体制を整えましょう。
成長をサポートする
業務に必要な技術を教える過程では、できないことや苦手なことが判明してくるはずです。それらを失敗として扱わず、成長の機会として活かせるよううまく指導しましょう。
また、達成できている点や改善すべき点などは自分自身でわかりにくいことも多いです。教育担当者による定期的なフィードバックの機会を設けることが重要でしょう。オンボーディングの目的は、業務ができるようになることではなく、組織の一員として生き生きと働けるようになることです。技術面だけでなく、周辺知識や業務が楽しくなるコツなど、同じ仕事をしてきた先輩従業員だからこそ教えられる内容も盛り込みましょう。
スモールステップ法を意識する
誰でも良い評価を早く得たいと思うものですが、そのために急がなければならない状況は、育成環境として決して良いとはいえません。しかし、新入社員の早期の戦力化を目指す企業は多く、成長の早い従業員が評価の対象になる場合も多々あります。
早い成長を期待すればするほど、大切なコミュニケーションの機会や人間関係の構築がおざなりになり、後々になって大きな問題になることがあるため注意しましょう。オンボーディングは、できる限りスモールステップを意識し、仕事の楽しさや意義をしっかりと実感できることを優先します。
オンボーディングの成功事例に学ぼう
日本オラクル
日本オラクル株式会社では、クラウド事業を推進するにあたって大幅に採用を拡大しており、近年では年間100名規模で中途社員を採用しています。このようななか、新入社員に早く会社に慣れて実力を発揮してもらうため、オンボーディングをはじめとする独自の人事戦略を進めています。大きな特徴は、会社に関する基礎知識から実戦を想定した練習まで網羅する、非常に丁寧な研修プログラムを実施していることです。新入社員研修というと人事部門が担うイメージがありますが、同社では配属先が大きな権限と責任を持ってオンボーディングを実施しています。
博報堂
株式会社博報堂では、近年積極的な中途採用に取り組んでいるものの、現場サイドの多忙ゆえに新人の教育に注力できない状況が続いていました。そこで、きめ細やかなオンボーディングを導入することで、新入社員を定着と早期活躍を目指しています。具体的な内容としては、懇親会を毎月開催したり、企業文化理解のための研修を行ったり、先輩社員からアドバイスを受けられる場を設けているそうです。さらに、「On Board School」と銘打った独自のプログラムを実施し、業務に関する知識の習得を体系的に進めるとともに、従業員同士のつながりづくりの場としても活用しています。
メルカリ
急速な成長を続けている株式会社メルカリでは、新規に採用した社員に対してITシステムを駆使したユニークなオンボーディングを実施しています。オンボーディングに必要な情報をポータルサイトに集約して、新入社員が知りたいと思ったときにいつでもアクセスできるようにしているのが代表的な例です。また、オンボーディングの状況をデータで可視化するために、技術領域ごとにそれぞれが固有のKPIを設定してサーベイで進捗確認しています。これにより新入社員一人一人に合ったサポートが受けることができます。
まとめ
人事分野において、オンボーディングの重要性は年々増しています。労働人口が減少していく昨今、せっかく獲得した新入社員には確実に定着して欲しいという想いはより切実なものになっているからです。これまでのように、従業員が離職しても、新たに採用できるとは限りません。今後は、従業員をより丁寧に育成し、戦力であると同時に仲間としての意識を共有できる人事戦略が重要になってくるでしょう。自社の人材育成にオンボーディングの概念を取り入れ、いきいきとした組織作りを目指しましょう。