始業時間よりも早く出社して時間外労働をすることは、「朝残業」に該当し、割増賃金の対象となり得ます。朝残業に該当するかどうかの判断には、その労働が指揮命令下にあるかどうかが重要です。直接的な指示だけでなく、黙示的指示においても朝残業の要件を満たすため注意しましょう。今回は、朝残業の意味や該当するケース、朝残業のメリット・デメリット、注意点について解説していきます。
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朝残業の意味
朝残業とは、就業規則や雇用契約書で定められた始業時刻よりも早く出社する時間外労働のことです。早朝の電車に乗ることにより通勤ラッシュを避けられるほか、帰宅時間を早めることができるなどのメリットから、多様な働き方が可能となった現代では朝残業を積極的にする人も増加しています。また、始業時刻ぴったりに業務が開始できることや、深夜残業を削減できることから企業にとってもメリットがあるといえます。
朝残業に該当するケース
労働基準法では、1日8時間、1週間に40時間を超えた労働をさせてはならないと定められています。この労働時間を超えた場合は、「時間外労働」になり残業代の支払いが必要です。
労働時間とは、「使用者の指揮命令下に置かれている時間」と定義されています。
指揮命令下とは、例えば、
- 業務に必要な準備行動や業務に関連した後始末がある場合
- 使用者の指示があった場合に即座に業務にかかることを求められている場合
- 参加が義務付けられている研修や、使用者の指示により学習等を行う場合
といった時間はすべて労働時間として扱われます。始業開始時刻よりも前に上記のような労働が発生している場合、「朝残業」として適切な残業代が支払われなければなりません。
残業代は通常の賃金の25%以上、午後10時から翌日午前5時までの深夜労働も同じく賃金の25%以上の割増しが必要です。時間外労働と深夜労働が重複した場合は、通常賃金に比べ50%以上割増して支払わなければなりません。
朝残業のメリット
生産性の向上
早朝から目の網膜に光が入ると、セロトニンという物質が分泌されることが科学的に証明されています。セロトニンは心身を安定させ、安らげる効果があります。また早くに出勤することで電車のラッシュ時のストレスなく出社できるため、朝の時間に比較的リラックスした気持ちで業務に取り組むことができるでしょう。
また、朝残業することは、夜残業と異なり始業時刻までの限りある時間を有効に使わなければなりません。そのため、効率的に業務を行おうという意識も芽生えます。
帰宅時間の短縮
勤務時間を早めることで、帰宅時間が早まり夜は自分の趣味などに費やす時間が増えます。また、寝る前にゆっくりとした時間があることで体も休まり、質の良い睡眠をとることができるでしょう。質の良い睡眠は、うつ病予防や自律神経を整えることにもつながります。
朝残業のデメリット
睡眠時間の減少
始業時間よりも早く勤務するには、当然早起きする必要があります。早起きが自分の体に合わない場合は体調を崩したり、睡眠障害などが発症したりする恐れがあるでしょう。また、普段の睡眠時間が短い人にとっても早起きは苦痛の原因になり得ます。朝残業を行う際には、自分のライフスタイルや睡眠時間を考慮して決めるべきでしょう。
長時間労働の可能性
朝残業をしても依然として自分の仕事が残っていた場合、さらに残業が必要となり結果として長時間労働になってしまう場合があります。また、仕事がさほど残っていなかったとしても、夜残業を行っている人に遠慮して必要のない残業をしてしまうケースも少なくありません。特に現代では、非正規社員の増加によって正規社員の負担が大きくなっている企業も多いでしょう。自分の容量を超えた仕事を抱えている人は、朝残業という働き方はあまり向いていないかもしれません。
朝残業の注意点
残業代の確認
朝残業を行ったら、残業代が支給されているか定期的にきちんと確認しておきましょう。残業代を支払う契約内容なのに支払われていないなど、実際の労働条件と実態が異なっている場合、条件を直すよう雇用主に要求することができます。また、雇用者は労働条件の相違を理由に契約解除を申し出ることが可能です。残業代がついていないことがわかったら、まずは上司や人事部に相談し、業務上必要な残業であったことを確認してもらいましょう。
残業代の請求期限
残業代の請求期限は、労働基準法の改正で2年から5年に延長されました。ただし、当分の間は移行期間にあたるため3年が適用されます。正当な理由で残業をしたにも関わらず支払われない場合は、できるだけ早く弁護士や社会保険労務士など専門家に相談しましょう。また、労働基準監督署などの公的機関に連絡するのも一つの手段です。
残業を示すための証拠
前述のとおり、使用者の指揮命令下に置かれている時間でなければ労働時間とみなされません。会社側から「勝手に早く出社しただけ」と言われないためにも、パソコンのログイン・ログアウト時間やメールのやりとりなど、朝残業の証拠になるものはすべて記録しておくようにしましょう。
まとめ
現在は、働き方改革で推進されているとおり、夜残業を減らして朝残業を推奨する動きが多くの企業でみられます。朝残業は生産性が上がり帰宅時間が早くなるというメリットがありますが、一方で自分の体に合わずに体調を崩すこともあります。また、当然ながら朝残業も労働時間であり、残業代請求におけるトラブルが発生するリスクも忘れてはなりません。残業代が支給されない場合は速やかに専門家や公的機関に連絡をして対応してもらいましょう。すでに朝残業を活用している人も、これを機に残業代や労働条件を確認して、朝残業を有効かつ適切に利用してみてください。