雇用契約を結ぶ際には、労働条件通知書と雇用契約書の2種類を発行します。この2つは記載されている事項が異なるのはもちろんのこと、発行義務があるかどうか、署名捺印の有無、対応する法律などにも違いがあるため、確認しておきましょう。今回は、労働条件通知書と雇用契約書の違いや、それぞれが必要な理由と対象者、記載内容について解説していきます。
労務管理に便利なクラウド型勤怠管理システムAKASHIの資料はこちら>>労働条件通知書と雇用契約書の違い
労働条件通知書について
労働条件通知書とは、主に雇用契約時に、企業が労働者に賃金や労働時間、休日などの労働条件通知するための書類のことであり、労働基準法第15条「労働条件の明示の義務」を根拠としています。企業から提示されるものであるため労使双方の署名捺印などは必要ありませんが、最初に条件を提示することによって労働者が諸条件に納得して入社し、採用後も企業が恣意的に労働条件を変更することを阻止できます。
原則として書面での通知が義務付けられていますが、2019年4月1日より、労働者が希望した場合はFAXやメール、SNSでの通知も認められるようになりました。ただし、この場合も印刷して書面にできる形式であることが条件となっています。
雇用契約書について
雇用契約書とは、企業と労働者が雇用契約を結ぶ際に交わされるもので、企業と労働者が雇用契約の内容について合意したことを示す書類のことです。双方の合意を示すものであるため、企業側の担当者と雇用される労働者それぞれの署名捺印が必要で、通常2通作成して労使双方で保管します。
民法第623条では、雇用について、労働者がその企業に労働力を提供し企業はそれに対する報酬を払うと約束すること、と定めています。その方法については定められておらず、例えば口約束でも雇用契約は成立するのです。雇用契約書を発行する企業は多いですが、必ずしも義務ではありません。しかし労働条件通知書の発行だけでは雇用契約の細部について「言った」、「言わない」のトラブルが生じる可能性もあります。このようなトラブルを避け企業と労働者が信頼して雇用関係を築くために、雇用契約書はあった方が安心だといえるでしょう。
労働条件通知書と雇用契約書の兼用
雇用契約書の発行は義務ではありませんが、労働条件通知書の発行はしなくてはなりません。そこで、労働条件通知書と雇用契約書の内容を合わせて「労働条件通知書兼雇用契約書」として1枚の書類で雇用契約を結ぶ企業もあります。労働者が労働条件を確認しつつ契約に合意できるので、効率的な方法だといえるでしょう。
労働条件通知書とは
労働条件通知書が必要な理由
企業と労働者は雇用契約を結びます。この雇用契約は民法における契約自由の原則に基づき、使用者と労働者の自主的な交渉の下で行われるべきものとされています。
そのため雇用契約は、「従業員になろうとする人が労働力を提供し、もう一方がそれに対して報酬を支払うことを合意する」という意味を持つにとどまっています。しかしこれだけでは労働者が不利な立場に陥りやすく、採用後の労働環境が思っていた条件と違うといったトラブルが発生してしまうことも考えられます。
そのため労働基準法では、労働者保護の観点から、労働条件の通知を使用者に対し義務として課しているのです。例えば「労働条件通知書を渡していない」、「口頭でしか行っていない」等、労働条件の明示を怠った場合、労働基準法第120条により30万円以下の罰金が科されることがあります。
労働条件通知書の対象者
労働条件を通知すべき対象にはどのような労働者が含まれるのでしょうか。労働基準法は、すべての労働者の労働の最低基準を定めている法律です。そのため労働条件の明示義務については、正社員に限らず契約社員、派遣社員、パート・アルバイト等すべての労働者に適用されます。労働条件の明示義務については「労働者派遣法」や「パートタイム労働法」などでも言及されており、例え創業時からの気心の知れた従業員や親族であっても、雇用関係を結ぶ以上は必ず発行しなければならないとされています。
労働条件通知書の記載内容
労働条件通知書は、そこに記載する内容についても「労働基準法施行規則」により規定されています。記載すべき事項には絶対的明示事項と相対的明示事項があり、どちらの条件についても労働基準法で定める基準に満たない条件は認められません。
例えば「割増賃金は支払わない」、「年次有給休暇はない」といった労働基準法に違反する条件は無効です。違反する条件を労働者が知らずに雇用契約を結んでしまったときは、違反する条件は労働基準法の水準に置き換えて適用されることになるとされています。
絶対的明示事項とは必ず明示されるべき労働条件のことをいい、相対的明示事項とはその他に労働条件を定めた場合に明示するべき内容のことをいいます。絶対的明示事項のうち「昇給」について以外は、原則として書面にて明示しなければなりません。なお、労働者が求めた場合はFAXやメール、SNSでの通知も認められています。
具体的な内容は以下のとおりです。
- 絶対的明示事項
- 労働契約の期間
- 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準
- 就業する場所、従事すべき業務
- 始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、就業時転換
- 賃金の決定・計算・支払いの方法、賃金の締め切り・支払いの時期、昇給
- 退職(解雇の事由を含む)
- 相対的明示事項
- 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定・計算・支払いの方法、退職手当の支払い時期
- 臨時に支払われる賃金、賞与、精勤手当・勤続手当・奨励加給・能率手当等、最低賃金額
- 労働者に負担させるべき食費・作業用品等
- 安全および衛生
- 職業訓練
- 災害補償および業務外の傷病扶助
- 表彰および制裁
- 休職
雇用契約書とは
雇用契約書を発行する意味
労働条件通知書は企業からの一方的な通知であるのに対して、雇用契約書は企業と労働者が労働条件を確認し双方の合意に至ったという証明の書類となります。また、雇用後の労働条件についての勘違いや説明不足を防ぎ、トラブルが起こった際などの証拠としても書面に残す意味があるでしょう。
雇用契約書の対象者
雇用契約書のもととなる「雇用契約」の考え方は、民法第623条によるものです。ここでは、労働者を「労働に従事することを約したもの」としています。これにより、雇用契約書の対象者は労働者全体を指すと考えられます。
雇用契約書の記載内容
雇用契約書には、企業と労働者の間で決められた労働条件などを記載します。明示すべき条件は、労働条件通知書とほとんど同じといって良いでしょう。労働条件通知書と異なるところは、労使双方の署名捺印が必要なところです。双方が署名捺印することによって、お互いに雇用契約書の内容を理解し、労働力の提供とそれに対する報酬の支払いを約束した証拠となるのです。労働条件通知書と同じように雇用契約書に記載される条件についても労働基準法で定められた基準を下回ってはいけませんが、もし労働基準法の基準に満たない条件が含まれていたとしても雇用契約自体が失効するわけではなく、その条件は「労働基準法の定める基準」と読み替えて適用することになります。
まとめ
この記事では、労働者を雇用する際に必要な労働条件通知書と雇用契約書について説明しました。一般に不備のない契約は信頼感を高め、その後の両者の関係にも良い影響を与えます。労働者とより良い関係を継続することはお互いが気持ちよく働けるだけでなく、事業の成長にも繋がる重要なこといえるでしょう。そのためには雇用契約時に誠意をもって労働条件の明示義務を果たし合意に至ることが大切です。