労働基準法では、生理日の就業が著しく困難な女性に対して生理休暇の取得を認めており、労働者から請求があった場合、企業には付与の義務が生じます。生理休暇は、正社員やパート、アルバイトなど雇用形態に関わらず取得できるものの、認知度が低いことや、男性の多い職場では申し出しにくいといった問題から、取得率がかなり低い状況です。今回は、労働基準法における生理休暇の定義や、有給・無給の取り扱い、日数の制限、付与の際の注意点について解説します。
労務管理に便利なクラウド型勤怠管理システムAKASHIの資料はこちら>>生理休暇は働く女性を支える制度
生理休暇とは
生理休暇は労働基準法第68条に定められ、すべての企業に義務付けられている法定休暇の1つです。生理日の体調不良により、就業が著しく困難な女性が休暇を請求した場合に与えられ、働くことが難しい状況におかれた労働者を守るための休暇といえます。
企業が従業員から生理休暇を請求された場合、就業規則における既定の有無などに関係なく、休暇を与えなければなりません。請求を認めなかったり、無理に出勤させたりするのは違法になります。いかなる理由があろうとも生理休暇の取得は認可すべきであり、違反すれば30万円以下の罰金が科せられます。
ただし、生理休暇の請求ができるのは、「就業が著しく困難な場合」であるため、生理日だからという理由だけでは生理休暇は請求できません。
また、労働基準法上でも、生理休暇を無給にするかどうかは企業の判断に委ねられることになります。基本無給で、代わりに年次有給休暇を充てるようにしても問題はありません。生理休暇の日数が増えることで、年次有給休暇が減ってしまう可能性があるので注意しましょう。
生理休暇の取得状況
生理休暇は、女性が有する妊娠・出産のための生理的機能を保護するために整備された法律の一つです。しかし、厚生労働省の調査によれば、2014年4月1日から2015年3月31日の間に生理休暇を請求された企業の割合は2.2%、請求した女性労働者の割合は0.9%と非常に低い結果でした。生理時の体調不良で悩む女性は多いにもかかわらず、なぜ生理休暇の取得率は低いのでしょうか。
その理由には、「仕事が忙しく休める雰囲気ではない」「辛いけれど薬などを飲んで我慢できる程度である」「男性の多い職場で辛さを理解してもらえない」「恥ずかしくて言い出しにくい」などさまざまな事情があるようです。生理は女性にとって非常にデリケートな問題であり、症状や考え方も一人一人違って当然であるため、企業側が配慮する姿勢が重要です。
生理休暇の気になる疑問を解消
生理休暇を取得できる対象
生理休暇は、生理により就業が著しく困難な場合において、労働者ならば誰でも取得することができます。つまり、正社員だけではなく、契約社員、派遣社員、アルバイト、パートなどの非正規労働者でも、生理休暇を取得することができます。企業が就業規則などで、生理休暇を取得できる従業員の範囲を限定することは法律違反となりますので、注意しましょう。
生理休暇の申請方法
生理休暇の申請は、口頭により、当日に申し出れば良いとされています。これは、生理日を事前に予測して申請するのは難しいためです。また、就業困難な状態である本人に、さらに複雑な手続きを負わせることはこの法律の趣旨に反するため、医師による診断書などを提出して証明する必要もありません。もし証明が必要な場合は、普段からよく本人と接している上司や同僚の証言程度で良いとされています。
生理休暇の取得単位
生理休暇は、暦日単位での取得だけではなく、時間単位での取得も認められています。たとえば、午前中仕事をして午後体調が悪くなった場合などに、午後からの半日休暇や時間単位の休暇を申し出て取得すること可能です。労働基準法の通達においても、労働者が希望する範囲において休暇を取得させれば良いとされています。
取得日数の制限
生理期間の長さや、症状の重篤さは、一人一人異なるものです。そのため、生理休暇の取得日数を就業規則などで制限することは許されていません。また、月経不順や生理周期が短い女性の場合、ひと月に2回生理になる可能性もあります。そのため、「生理休暇の取得は月に1回まで」という取り決めをすることもできません。
有給と無給の取り扱い
生理休暇を有給とするか無給とするかの取り決めは、各企業に任されています。そのため、生理休暇は基本無給で、年次有給休暇を充てさせるようにしても問題はありませんし、1日目は有給、2日目からは無給といった対応を行うことも可能です。
関連記事:
生理休暇を利用する際の注意点
事実の証明義務はない
生理休暇とは、単に生理日であるだけではなく、生理が原因で就業が著しく困難な場合に取得できる休暇です。しかし、生理に伴う症状には個人差があるうえ、状況を証明するのは困難です。そのため、企業は、事実の証明がなくても申請があれば休暇を与えなければなりません仮に医師の診断書を要するなどの厳格な証明を求めてしまうと、就業が困難な体調でも病院に行かなければならず費用もかかるため、本人の負担が大きくなります。
また、生理は女性の妊娠機能にも直結するため、必ずしも薬などで症状を抑えることが良い訳では無かったり、そもそも病院受診をしても必ず快癒したりするものではありません。どうしても証明が必要な場合には、同僚など普段の状況を知っている方に確認する程度で良いこととなっています。
なお、生理による体調不良の症状について深く追及したり、真偽を疑って詳細を聞き出そうとしたりすることはセクシャルハラスメントにあたる可能性があるため、注意が必要です。
生理当日でなくても取得できる
生理当日ではなく、生理の3~10日前ぐらいから身体的・精神的症状に悩まされる「PMS(月経前症候群)」と呼ばれる病気があります。身体的な症状としては、腹痛、頭痛、腰痛、むくみなど、自律神経系の症状ではのぼせやめまい、倦怠感、精神的症状では情緒不安定、イライラ、抑うつ、不安、睡眠障害など、個人によってさまざまな症状に悩まされます。一般的には生理が始まると症状が軽快したり消失したりすることも多いため、生理休暇の適用条件である「生理当日」には当てはまりません。労働基準法や政府の通達においても、PMSを理由に生理休暇が取得できるかどうかについては言及されていない状態です。
しかし、PMSに苦しむ女性は意外に多く、PMSの場合も生理休暇が取得できるように定めている企業もあるようです。PMSは、生理に由来する症状でもあるため、悩んでいる方は企業側に相談してみると良いでしょう。
生理休暇の取得が多いと有給休暇に影響する
生理休暇を有給とするか無給とするか、つまり出勤扱いとするか欠勤扱いとするかは各企業に任されています。そのため、生理休暇が欠勤扱いされる場合に、あまり多くの生理休暇を取得すると、次の年の年次有給休暇の付与に影響する場合があります。なぜなら、年次有給休暇付与の基準として「全労働日の8割以上出勤している」という条件があるためです。たとえば、毎月2日の生理休暇を欠勤扱いで取得すると、年間で24日の欠勤をしていることになります。勤務形態によっては、出勤日数が全労働日の8割を切ってしまう場合もあるでしょう。そのため、生理休暇の規定については、労使でしっかりと確認し、トラブルを回避するような対策が必要になります。
不正な取得は懲戒処分の対象にもなる
生理休暇には事実の証明義務はありませんが、虚偽の申請で生理休暇を取得してはいけません。過去には、生理休暇の不正取得によって行われた懲戒処分が有効と判断された判例もあります。また、不正取得を防ぐためには、企業側は以下のような対策をとると良いでしょう。
- 女性の上司などを配置して、相談しやすい状況を作り、症状の程度を把握する。
- 就業規則などで生理休暇は無給であると規定する。または有給とする場合は日数を制限する。
- 不正取得に対する懲戒のルールを定め、周知する。
まとめ
現状の取得率の低さが示す通り、多くの日本企業においては、生理休暇を取得しやすい状況とはいえないでしょう。生理に関する症状については、個人差も大きいため、たとえ女性同士であっても完全に理解し合うことは困難です。そのため、症状の真偽について疑ったり、生理休暇の取得に対して厳しい目を向けたりするのは、法律の趣旨に反しており、適切ではありません。
女性の社会進出を助け、働きやすい環境を構築するためにも、生理休暇について理解や配慮をしていくことが大切でしょう。