ダブルケアとは、育児と介護が同時期に発生する状態のことを指します。ダブルケアでは、育児に加え介護も行う必要があり、時間的余裕がなくなるだけでなく、心身への負担も増してしまいます。その結果、仕事との両立が難しくなり、離職を決断する場合があるため、企業は対策が必要です。そのため企業は、テレワークやフレックスタイムといった柔軟な働き方を提供し、ダブルケアを抱える従業員を支援しましょう。
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ダブルケアとは
1つの世帯が同時期に介護と育児の両方に直面することを「ダブルケア」と言います。横浜国立大学の相馬直子教授と英国ブリストル大学の山下順子上級講師が共同研究を進める中で2012年に生まれた造語です。精神的な負担に加え、体力的負担、経済的負担が大きく、仕事との両立が困難なことが問題となっています。負担の大きさから、やむを得ず離職する人も少なくありません。大切な人材を失わないためにも、企業はダブルケアの現状を把握し、適切な対策を講じることが求められます。
ダブルケアの現状
内閣府の調査によれば、ダブルケアを行う者の推計人口は25万3千人となっており、男女別にみると、男性が8万5千人、女性が16万8千人となっており、ダブルケアを行う女性の推計人口は、同男性の約2倍です。年齢構成別の内訳では、ダブルケアを行う者は30歳~40歳代が多く、男女ともに全体の8割を占めています。
ダブルケアに直面する前に就業していた者のうち、ダブルケアが始まった後の業務量の変化について見ると、男性では「業務量や労働時間等を変えなくてすんだ」が47.9%と最も多く、次いで「業務量や労働時間等を減らした」が18.7%となっています。女性では「業務量や労働時間等を減らした」が38.7%と最も多く、次いで「業務量や労働時間等を変えなくてすんだ」が30.0%です。「業務量や労働時間等を減らした」のうち、無職になった者の割合は、男性が2.6%に留まっているのに対し、女性が17.5%と、約2割となっています。このことから、ダブルケアに直面した場合の就業への影響は、女性の方が大きいことがわかります。
ダブルケアが増加している要因
晩婚化・晩産化や女性の社会進出、兄弟数の減少、地域のコミュニケーションの希薄化、高齢化による要介護高齢者の増加などがダブルケアの増加の要因です。少子化と高齢化が同時進行する日本において、ダブルケアは今後大きな社会問題になると考えられています。従来は、子育てと介護の同時進行は主に女性が担い手とされてきましたが、その概念は崩れつつあります。男女問わず就業中にダブルケアに直面している世帯や個人は、現状の福祉制度の利用のみでは課題を解決しきれず、適切な支援を受けられないまま負担を抱えているケースも多いのです。
ダブルケアによって企業に発生する問題
生産性の低下
ダブルケアに直面している従業員は心身ともに大きな負担を抱えています。業務量や業務時間が本人の許容量を超えている場合、ミスが多発したり、生産性が低下したりする可能性があるでしょう。本人から希望があれば、業務量の軽減や業務時間の削減が必要になります。重要なプロジェクトの担当から外す場合は、本人の意思を聞いて十分に話し合いをしましょう。
従業員の心身への負担の増加
育児と介護の両方を担いながら働き続けることで心身への負担が増加します。メンタルヘルスの不調や過労などにつながるおそれもあるのです。貴重な人材が働けない状態にならないように、企業はダブルケアによる心身への負担を考慮し、職場全体でサポートできる体制を整える必要があります。
人材流出のリスク
ダブルケアによりやむを得ず離職する人も少なくありません。ダブルケアを行う割合が多い30歳~40歳は、貴重な戦力である世代です。勤続年数が長く役職を有している人材を失う可能性もあります。優秀な人材がダブルケアを理由に離職してしまうと、企業にとって大きな損失になることを認識しておかなければなりません。
企業が行うべき対策
柔軟な働き方を導入する
テレワークやフレックスタイム、時短勤務といった柔軟な働き方を導入しましょう。ダブルケアを行っている人だけでなく、すべての従業員が利用できるようにすることが大切です。ダブルケアを行っている人はもちろん、仕事のフォローをする周囲の従業員にも配慮し、不公平感が生まれないようにする必要があります。
職場風土を改善する
職場においては、「育児・介護休業法」により家族介護や育児を行う人を支援する育児・介護休業制度が設けられています。しかし、一緒に働く人の理解を得られなかったり、休みづらい雰囲気が定着していたりすると、ダブルケアを行っている人は制度を利用しづらいでしょう。まずは、必要に応じて休みが取りやすく、柔軟な働き方ができる職場風土の醸成が求められます。
相談窓口の開設や情報提供を行う
ダブルケアを行っている人は相談相手がいないことが多い傾向にあります。企業は「働き方」の相談窓口を開設し、介護や育児をはじめとしたさまざまな悩みを気軽に相談できるような体制を整備することが重要です。社内の支援制度とあわせて行政の支援制度の情報提供も行うことが望ましいでしょう。相談窓口があることやその利用方法について従業員に定期的に情報発信することで、今は介護や育児に従事していない従業員の安心感にもつながります。
まとめ
今回はダブルケアの概要やダブルケアによって企業に発生する問題、企業が行うべき対策について解説しました。ダブルケアに直面しながら従来どおり働くことは困難です。従業員が働き続けられるようにするためにも、企業は柔軟な働き方の導入や相談窓口の開設、行政の支援制度の情報提供などを行う必要があります。休みが取りやすく、柔軟な働き方ができる職場風土の醸成も不可欠です。さまざまな事情を抱えながら働く従業員がいることを理解し、誰もが働きやすい環境を整備しましょう。