アダプティブラーニングとは、学習者一人ひとりの理解度や進捗に合わせて、最適な学習内容やペースを提供する教育手法を指します。これにより、効率的な学習が可能となり、個々の弱点克服や理解度の向上が期待できます。一方、導入には初期投資やシステム構築のコストがかかります。また、すべての分野に適用できるわけではなく、適用範囲の見極めが重要です。今回は、アダプティブラーニングの効果・課題、導入時の注意点について解説します。
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一人ひとりに最適化された学習をする方法
アダプティブラーニングとは、日本語で「適応力のある」を意味する形容詞「adaptive」に「学習」を意味する「learning」を組み合わせた教育用語で、学習者一人ひとりの能力や適性、習熟度に応じて、最適な学習内容や学習ペースを提供する教育手法を指します。日本語では「適応型学習」や「個別最適化学習」などと訳され、学習者個々人の理解度に応じて最適な学習プログラムが提供されるため、より深い学びを得られるのが特徴です。似たような教育用語にアクティブラーニングがあり、アクティブラーニングはグループディスカッションやグループワークを通して、能動的に学習する教育法を指します。一方、アダプティブラーニングは共通の内容を全体に教えるのではなく、一人ひとりに最適化された学習プログラムを提供する新たな教育法です。
なぜ注目されているのか
アダプティブラーニングが注目される背景には、社会の変化やICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)の進化、新型コロナウイルス感染症の拡大などがあります。例えば、少子高齢化やグローバル化の影響で社会構造が変化し、多様な教育のあり方が求められるようになりました。また、パソコンやスマートフォンの普及によって「いつでも」「どこでも」「誰でも」学習できるようになり、AIや機械学習の登場によって、学習データの収集や分析、個人最適化も比較的簡単になっています。さらに、新型コロナウイルス感染症の拡大によってオンライン学習が当たり前になったのも、アダプティブラーニングが注目を集める理由の一つです。
企業がアダプティブラーニングを取り入れた際の効果と課題
効果1:学習効果の最大化
アダプティブラーニングを取り入れた際の効果としては、学習効果の最大化が挙げられます。例えば、理解が早い社員にはより高度な内容や発展的な学習プログラムを提供し、理解が遅い社員には基礎的な内容を繰り返し提供して理解を深めることが可能です。学習データの分析によって強みと弱みも可視化されるため、強みを伸ばして弱みを克服するような学習プログラムも比較的簡単に作成できます。理解の早い社員は早期の戦力化も期待できますし、理解の遅い社員に対しては補助教材を提供することで、スキルの均一化を図ることも可能です。
効果2:指導側の品質向上
従来の教育手法では指導側と学習者側の相性も無視できず、属人的な要素に左右される部分も多いため、指導品質の偏りも問題視されてきました。しかし、アダプティブラーニングでは指導者個人の勘や経験に頼ることなく、蓄積した学習データを客観的に分析し最適な学習プログラムを提供するため、指導品質の均一化が可能です。さらに、従来はベテラン指導者が長年のノウハウに基づき実施してきた効果的な教育法を体系化し、学習者一人ひとりに合った形で自動的に提供できるというメリットもあります。
効果3:蓄積された過去のデータを有効活用
アダプティブラーニングでは個人の学習データだけでなく、AIや機械学習を駆使して他の学習者のデータを分析することも可能です。例えば、試験合格者や成績優秀者の傾向や特性を調べ、その調査結果に基づき指導を進めるように自律進化する学習プログラムもあります。従来、学習者がつまずきやすい箇所や抱えがちな課題の特定は、ベテラン指導者の勘や経験に頼ってきました。しかし、アダプティブラーニングでは過去の学習者の膨大な学習履歴を参考に、ベテラン指導者でも見抜けないような課題を客観的なデータとして可視化できます。指導品質の向上と対応コストの削減を同時に実現できるのも、アダプティブラーニングならではのメリットといえるでしょう。
課題:ICT環境の整備が必要
導入すると効果の大きいアダプティブラーニングですが、課題もあります。アダプティブラーニングの導入には、ICT環境の整備が必須という点です。特に、日本の教育現場はICT環境の整備が遅れているといわれています。地域や家庭によって差が大きいのも課題です。つまり、誰もが等しくアダプティブラーニングを受けられる環境が整っていない、という課題があります。ビジネス現場においては、新型コロナウイルス感染症に伴う在宅勤務の奨励によって、オンライン学習の土壌が整ってきました。アダプティブラーニングはソフトとハードの連携が欠かせないため、包括的な環境整備が必要不可欠です。
アダプティブラーニング導入時の注意点
導入にはコストや時間がかかる
アダプティブラーニングを導入するには、ICT環境だけでなく、オンライン学習を受講するためのパソコンや、eラーニングシステムの利用料といったコストがかかります。ハードウェアやソフトウェアの構築には時間がかかり、システムを運用する管理者には一定の専門知識が必要です。特に、ICTに苦手意識を持っている方にとっては、大きな負担になる可能性があります。また、既存の学習プログラムを適用できない場合は、自社に最適化された学習プログラムを作成するためのコストも必要です。導入を進めるにあたっては、予算・人員・環境といったリソースを洗い出し、必要な準備や手順を明確化しておく必要があります。
学習分野によっては効果を活かせない
アダプティブラーニングは、学習分野によっては効果を活かせない点にも注意が必要です。具体的には、アダプティブラーニングは知識を習得するような学習分野には最適ですが、コミュニケーション能力の向上や実践的なスキルの習得を目指すような学習には向いていません。例えば、医療現場における実技や、ディスカッション・ディベートなどの非言語分野の学習には不向きです。実技を習得したい場合は、対面指導も可能な学習法のほうが適しているでしょう。アダプティブラーニングは向き不向きがあるため、学習分野をふまえた上で導入を検討することが重要です。
学習者のモチベーション維持の工夫
ICT環境を使ったアダプティブラーニングは「いつでも」「どこでも」「誰でも」学習できる反面、学習者のモチベーションを維持するのが難しいという問題があります。いくら個人に最適化した学習プログラムを提供しても、学習者のモチベーションが低下している状態では自発的な学習は難しく、効果を最大化できないでしょう。例えば、従来の対面学習であれば一定の強制力があり、学習プログラムを工夫することで学習者のモチベーションを保つことも可能です。しかし、オンライン学習のアダプティブラーニングの場合、モチベーション維持は学習者個人に委ねられています。アダプティブラーニングの効果を最大化するには、積極的なコミュニケーションを意識し、学習者のモチベーションを維持する工夫を続けることが重要です。
まとめ
今回はアダプティブラーニングについて解説しました。アダプティブラーニングとは、学習者一人ひとりの能力や適性、習熟度に応じて、最適な学習内容や学習ペースを提供する教育手法です。社会構造の変化によって多様な教育のあり方が求められるいま、個人最適化によって大きな効果が期待できるアダプティブラーニングが注目を集めています。必要なリソースを洗い出し、アダプティブラーニングの導入を検討してみましょう。