
ベースアップとは、企業が従業員全員の基本給(ベース)を一律に引き上げる制度を指します。物価上昇などで賃金価値が下がるのを補い、生活の安定や企業全体の給与水準向上を目的として実施されます。定期昇給が勤続年数や評価に応じて個人ごとに上がるのに対し、ベースアップは会社全体で同じ比率・額で基本給を引き上げる点が異なります。ベースアップは従業員のモチベーション向上や採用力強化につながる一方、企業の人件費負担が長期的に増える点には注意が必要です。今回は、ベースアップと昇給の違いや、導入することで得られる効果や注意点などについて解説します。
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全従業員の基本給を引き上げる
賃金や給与を引き上げるにはいくつか方法がありますが、その中でも「ベースアップ」はすべての従業員に対して、一律の割合で基本給を引き上げる制度のことを指します。ベースアップを行う理由としては、インフレや物価高向上による対策のためであったり、組織成長における利益還元を行うためであったりさまざまな理由が挙げられます。なお、ベースアップは法律に基づいた制度ではないため、どの程度の割合で引き上げが行われるのかは、それぞれの企業や組織の裁量によって決定されます。ただし、近年は「賃上げ促進税制」や「所得拡大促進税制」の制定など、賃上げによるコストの一部を控除できる制度が導入されるといったように、賃上げを促進するための制度が充実しつつあります。
ベースアップと定期昇給の違い
同じ「賃上げ」の制度として「定期昇給」という方法がありますが、ベースアップとの最も大きな違いは「個別に昇給が決定される」という点でしょう。ベースアップは個人の評価や業績などを含まず、すべての従業員を対象として同じ割合の基本給を上げる制度です。一方で定期昇給は、勤続年数や業績などによる個人評価の上昇といった個人の評価によって昇給の割合やタイミングが決定されるものになります。そのため、企業や組織に対する貢献度や業績といった個人の働きぶりによって給与額が大きく左右されることになるでしょう。
ベースアップの計算方法
ベースアップは一律の割合によって引き上げられる賃上げの制度のため、以下の計算方法によって具体的な金額を算出できます。
・基本給×昇給率=昇給額
具体的には、基本給が50万円の従業員が企業から5%のベースアップが実施されると言い渡されたとき、実際に昇給される金額は「500,000×0.05=25,000」となり、月額2万5000円分の賃上げが実施されると考えられます。前述のとおり、ベースアップを実施する際には企業や組織の業績に応じて決定されることが多いため、その割合は一定ではありません。
そのほか、「定額方式」という割合ではなく同じ金額を一律で上乗せするケースもあります。この場合、各従業員の基本給の金額そのものに関わらず
一律の金額が上乗せされることになり、さらに公平感の高い方法といえます。
ベースアップを導入するメリット
従業員のモチベーション向上
多くの人が、働くうえで給与や賃金の条件を重視しているのではないでしょうか。賃金は実質的に支給される報酬であり、それが一律に上昇するのであれば、その企業や組織に所属する従業員のモチベーションや生産力の向上に期待できるでしょう。また、企業の業績や成長がベースアップの実施に寄与するため、「企業のためにこれからも頑張ろう」というエンゲージメントの向上や離職率の防止にもつながります。
採用市場での競争力強化
すでに組織に所属している従業員に加えて、これから採用を検討している求職者に対しても、ベースアップをしている企業は魅力的な条件につながる可能性があります。というのも、ベースアップは基本給全体を底上げするための制度であるため、初任給が向上する側面もあるためです。また同じ業種を比較したとき、給与が高い企業は企業としての価値も高く働くうえでの魅力を感じやすいといえることから、採用力の強化に大きく貢献できるといえるでしょう。
社会的評価や信頼性の向上
ベースアップは前述のとおり、業績が向上していなければなかなか踏み切ることはできません。そのため、ベースアップを実施している企業はおのずと業績が向上していたり安定していたりすることが想定できることから、社会的にも評価が高く信頼性のおける企業や組織であるというアピールにつながります。
近年、ベースアップを実施する企業は増加傾向にあり、実際に厚生労働省が発表している「賃金引上げ等の実態に関する調査」というデータでは、令和7年度において「ベースアップを実施した、もしくはする」と回答した企業は全体のおよそ57.8%にものぼることがわかりました。このように、ベースアップの実施をアピールすることで、企業の安定性や信頼性を担保し、その利益を従業員に還元する企業であることを実証づけられるというのは非常に大きなメリットといえるでしょう。
ベースアップの注意点
人件費負担が長期的に増える
ベースアップは全従業員を対象として実施することが一般的であるため、長期的に人件費が増加します。基本給が上昇するということは、それをもとにして計算される社会保険料の割合や、残業代、各種手当、退職金などの他の人件費も増加することを加味しなければいけません。また、仮に業績が悪化したからといって簡単に以前の基本給に戻すということは現実的に難しく、従業員からのイメージダウンなどのデメリットも大きいため、ベースアップを実施する際には組織の規模や現状の業績、将来性などを加味してベストなタイミングで実施したいところです。
評価制度が形骸化する可能性がある
成果主義やジョブ型雇用を採用している企業にとっては、基本給や賞与などの報酬は、本人の成果や企業貢献度などが評価されることで上昇し、それが従業員の大きなモチベーションにもつながっていることでしょう。実際に、「ベースアップ」は和製英語であり、成果主義やジョブ型雇用が主流である海外では、一律で基本給を上げるベースアップという制度そのものが存在しません。そのため、評価基準との整合性が取れないまま運用を進めると、従業員にとっては「自身への評価が報酬として直接結びつかず、正当に評価されていない」と不満を感じる可能性も考えられるでしょう。これに加え、評価制度そのもののフレームワークを再構築しなければならないコストもかかるため、人事評価の担当者に大きな負担を強いられる可能性も考えられます。
経営戦略との整合性に注意
ベースアップを検討する際に、経営戦略や人材戦略との整合性のバランスを見極めることが重要です。例えば成果主義やジョブ型雇用などのフレームワークに移行を進めている組織が、突然ベースアップを導入するとなると、制度としてのミスマッチが懸念されるでしょう。そのため、ベースアップを実施するための目的を事前に明確にしておきべきでしょう。例えば、物価高対策によるものなのか、離職防止によるものなのか、人手不足による人材確保の採用力強化を目的としているのかによって、ベースアップ以外の方法が適切という可能性もあります。もしもベースアップが難しいとの判断が下された場合、例えば福利厚生を充実させる、一時的ではあるものの賞与や手当などの制度を充実させる、といった方策を考えてみるのもいいかもしれません。
まとめ
近年、インフレや物価高などのあおりを受け、賃上げを積極的に推進する組織や、国が推し進めている制度が存在します。その中でもベースアップは公平性が高い賃上げの手法の1つではありますが、長期的な人件費の増加などのデメリットも存在します。どのような賃上げの方法が自社にとってメリットが大きいのか、賃金制度設計は慎重に実施しましょう。
