通常の給与とは別に従業員に支払われる賞与ですが、実際に従業員に支給されるのは社会保険料や所得税が控除された金額です。この社会保険料と所得税は企業が計算する必要がありますが、各従業員の扶養家族の人数などを正しく把握して計算しなければなりません。今回は賞与額そのものの計算方法、各種保険料や所得税の計算方法、賞与計算時の注意点、シミュレーション例を詳しく解説します。
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そもそも賞与とは
労働者に定期的に支給される給与に対し、臨時かつ支給額があらかじめ確定されていないものを賞与といいます。賞与は給与と異なり、支給が法的に義務付けられているものではありません。企業は賞与の有無や金額などを任意に定めることが可能です。夏季と冬季の年2回支給が一般的ですが、業績が好調な場合は業績賞与を加えた年3回となることもあります。基本的に年3回以下であれば賞与、年4回以上支給されるものは賞与ではなく報酬となります。
賞与額の計算方法
賞与額は、基本給に一定の倍率をかけて計算します。倍率は企業によって異なるため、賞与規定を確認しましょう。企業は賞与を支給する際、社会保険料と所得税を天引きし、労働者に代わって保険料の納付と納税を行います。基本的な計算方法は次の通りです。
「支給額-控除額(所得税・社会保険料)=差し引き支給額」
また、賞与の計算を行うにあたり、以下の3点は給与計算の場合と異なるため注意が必要です。
- 住民税を天引きしない
- 社会保険料の計算方法
- 源泉所得税の税率
各種保険料や所得税の計算方法を確認しよう
各種保険料について
社会保険料とは、主に以下の4つを指します。
- 健康保険料
- 介護保険料
- 厚生年金保険料
- 雇用保険料
各種保険料は、標準賞与額に保険料率を掛けて算出します。標準賞与額とは、税引き前の賞与支給額から1,000円未満を切り捨てた額です。支給1回につき厚生年金保険は150万円が上限であり、上限を上回る場合は一律150万円とします。
所得税について
所得税は、賞与から社会保険料を差し引いた所得税率基準額をもとに計算します。適用する税率は給与所得の源泉徴収税額表ではなく、賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表を使用する点に注意しましょう。
各種保険料や所得税の計算方法
- 健康保険料
- 介護保険料
- 厚生年金保険料
- 雇用保険料
健康保険料は、次の式で計算します。
「標準賞与額×健康保険料率×1/2」
標準賞与額は、賞与支給額の1,000円未満を切り捨てて求めます。ただし標準賞与額が573万円を超える場合は、一律573万円として計算します。
賞与支給対象の労働者が満40歳以上64歳以下の場合は、介護保険第2号被保険者として介護保険料を計算します。
「標準賞与額×介護保険料率×1/2」
労働者が加入している保険により、介護保険料率は異なるため確認が必要です。
厚生年金保険料は次の式で計算します。
「標準賞与額×厚生年金保険料率×1/2」
賞与が150万円を超える場合、標準賞与額は150万円として計算します。
雇用保険料は次の式で計算します。
「賞与支給額×雇用保険料率」
雇用保険料率は業種によって異なります。また、健康保険料などとは異なり、上限額はありません。
- 所得税
所得税額は以下の手順で求めます。
- 前月の給与額から前月の社会保険料を差し引き、所得税率基準額を求める
- 「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」から所得税率基準額と扶養人数により所得税率を調べる
- 賞与から社会保険料を差し引き、所得税の課税対象額を求める
- 所得税の課税対象額に所得税率をかける
- 小数点以下は切り捨てる
シミュレーション例を見てみよう
30歳、扶養家族無し、一般の事業に従事している労働者のシミュレーション例を見てみましょう。前月の所得税率基準額が25万円、賞与を40万円とし、全国健康保険協会に加入していると仮定した場合は以下の通りです。
表はスライドできます
保険・税金の種類等 | 保険料率・税率 | 金額 |
---|---|---|
A 賞与支給額 | 40万円 | |
1 健康保険料 | 9.81% | 40万×9.81%×1/2=19,620 |
2 厚生年金保険料 | 18.3% | 40万×18.3%×1/2=36,600 |
3 雇用保険料 | 0.3% | 40万円×0.3%=1,200 |
(参考:B 社会保険料合計=1+2+3) | 19,620+36,600+1,200=57,420 | |
(参考:C 所得税率基準額=A-B) | {40万円-(19,620+36,600+1,200)}=342,580 | |
D 所得税(C×税率) | 4.084% | {40万円-(19,620+36,600+1,200)}×4.084%=13,990 |
71,410円 |
賞与を計算する際の注意点について
保険料や税金を期日内に納付しよう
賞与から天引きした保険料や税金は、納付先や期日が異なるため、期日を間違えないように注意が必要です。期日内に納付されないと督促状が送られ、延滞金が課されたり、財産の調査や差し押さえられたりすることもあります。
社会保険料の上限に気をつけよう
社会保険料は、保険の種類によって保険料の計算対象となる金額の上限が異なります。健康保険は年間累計573万円、厚生年金保険は月額150万円がそれぞれ上限です。
賞与支払届を提出しよう
従業員ごとの賞与支払額を記入する賞与支払届は、賞与支給後5日以内に管轄の年金事務所または事務センターへ提出しなければなりません。賞与支払届は、賞与における社会保険料を算出し保険料を納付するために必要な書類です。これを提出しないと年金保険料が正しく計算されません。保険料の計算が誤っていても発見できず、将来の年金額が減ってしまうなどの可能性もあります。また、賞与支払届に添付が求められていた被保険者賞与支払届総括表は、2021年4月1日以降提出分から廃止されました。賞与を支給しなかった場合は、賞与不支給報告書のみ提出する必要があります。
まとめ
賞与は給与とは同じく、労働の対価として支給されるものです。しかし法的に義務付けられたものではなく、企業ごとの賞与規定等に基づいて支給されます。賞与に対しても各種社会保険料や所得税が課されるため、支給に当たってはそれら保険料額や所得税額を確定し控除しなくてはなりません。給与計算とは異なる点も多いため、誤りのないよう確実に算出し、正しい手続きを行うようにしましょう。