レイオフとは、解雇の一種で一時解雇のことを指します。米国や欧州のビジネスシーンで良く用いられる言葉ですが、日本で実施されるケースは少ないです。しかし、近年グローバル化する社会で注目を集めており、人事施策の一つとして適切に理解しておきましょう。今回はレイオフの概要や目的、一般的な解雇との違い、レイオフのメリット、レイオフ導入事例について詳しく解説します。
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レイオフとは
企業の業績が悪化した際に、従業員を一時的に解雇することを指します。原則、解雇した従業員を業績が回復した際に再雇用するのが前提です。主に一時的に生産量が減り、生産ラインの従業員を減らしたい製造業で実施されている取り組みです。ただし、日本とアメリカのレイオフは考え方が異なります。日本の場合、法律で労働者保護の目的から解雇実施の要件が設定されており、簡単に解雇ができません。一方、アメリカの場合は突然企業側から解雇通告されるケースが多い傾向にあります。また、日本の場合は人員整理を行う際に勤続年数が長いベテラン人材が対象となるのに対し、アメリカは勤続年数の短い若手人材が対象になります。場合によっては、部署や工場ごと切るケースも珍しくありません。
レイオフの目的
- 人件費を削減する
- 人材流出を抑制する
- 自社のノウハウを守る
売上に関係なく一定額発生する固定費の一つが人件費です。業績が悪化して売上が減少してしまうと、従業員に支払う給与を工面するのに苦労するため人員整理を検討するケースもあります。しかし、経験やノウハウを積んだ優秀人材を解雇してしまうと、企業の戦力が大幅にダウンしてしまいます。優秀人材を繋ぎとめておきたいが、給与を支払う余裕がない場合にレイオフは効果的です。一時的な解雇で、人員を削減できれば人件費の削減に繋がります。業績が上向き出したときに、一時的に解雇していた従業員を再雇用すれば戦力を取り戻すことも可能です。
人材育成にかかるコストは膨大です。膨大なコストをかけてまで育て上げた人材を業績悪化の理由により解雇してしまうのは、コストの無駄遣いになってしまいます。また、解雇してしまった人材が同業他社に転職してしまう可能性もあります。こうした課題を防ぐため、レイオフで再度従業員として雇用する仕組みを取っていれば、人材が他社に流出するリスクも抑制できるでしょう。さらに、従業員にかけた育成コストや工数も無駄にはなりません。
上記で紹介したとおり、解雇によって人材の流出リスクが高まります。しかし、流出は人材だけではなく長年培ってきた自社の業務知識やスキル、経験値といったナレッジをも流出させてしまう可能性があります。ナレッジは、企業にとって目に見えない重要な財産なので、レイオフの実施によって人材とともにナレッジの流出防止が可能です。
一般的な解雇との違い
解雇とは、企業が一方的に従業員の労働契約を終わらせることです。しかし、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当と認められない場合は従業員を一方的に解雇できないことが労働基準法第16条に定められています。また、解雇する際には従業員に対し解雇予告が必要です。労働基準法第20条では、企業が従業員を解雇するのに少なくとも30日以上前から解雇予告をしなければならないと定められています。解雇には、普通解雇、懲戒解雇、整理解雇の3つがあります。レイオフとリストラは整理解雇に該当しますが、リストラの場合は再雇用が前提とされていません。さらに日本でレイオフとよく間違えられるものに一時帰休があります。一時帰休は、従業員を在籍させたまま一時休業させることです。一定期間働かない部分では同じですが、平均賃金の60%以上の休業手当支給が必要になる一時帰休とは異なり、解雇なので休業手当が発生しません。
レイオフの社員側のメリット
転職を検討できる
一時的とはいえ解雇という形に変わりはありません。つまり、レイオフ後はどの企業にも属さないフリーな状態になります。企業に不満を感じていた場合や自分に適した企業を選びたい場合は、転職活動に集中できます。働きながらの転職活動は難しいうえ、決断を下すのも容易なことではありません。企業によっては、レイオフではなくグループ企業や関連企業への転職を進めるケースもありますが、新しいキャリアをスタートさせる選択肢が広がるのもレイオフの魅力です。
手当てを受けられる
レイオフは、企業の都合で実施される解雇なので対象の従業員は急な対応を求められます。そのため、ボーナスのような形で退職金が支給されるケースがあります。企業によっては、レイオフ希望者を募り、早期に応募した従業員に対して何割かの一時金もさらに上乗せすることも少なくありません。レイオフ実施後は、収入が途絶えてしまうものの支給される退職金等によって経済面の不安を抑制できるでしょう。ただし、支給額は企業や勤続年数によって差があるので事前に確認しておくことが大切です。
自分の時間を確保できる
先程ご紹介したとおり、レイオフ後は自由な時間を満喫できます。仕事が忙しく趣味に時間を費やせなかった方は、思う存分没頭できます。また、空いた時間を転職活動や資格取得のために活用可能です。このように、企業側だけではなく対象の従業員側にもメリットがあることを理解しておくといいでしょう。
レイオフの導入事例
Microsoft Corporation
ソフトウェア開発・販売を行うMicrosoft Corporationでは、2017年7月にユーザーへより良いサービスの提供を理由に組織再編する決断を下し、約5,000人の人員削減を敢行しています。対象となる従業員の大半がアメリカ以外で働いている人材です。組織再編後は、営業部門の業務をクラウドサービスに代行させ、エンタープライズ・中小企業規模のユーザーにアプローチする方向にシフトを切っています。また、政府や石油関連、ガス関連などの取引先からは撤退する決断を下しています。
Evernote Corporation
クラウド型のドキュメント管理システムを提供するEvernote Corporationは、2015年9月に小規模で集中したチーム構築を目的としたレイオフを敢行し、47人の従業員の一時解雇に加え、台湾、シンガポール、モスクワ3拠点の閉鎖を行っています。レイオフ実施の2か月前に就任したChris O’Neill社長は、Evernoteとユーザーをより適切に査定することを目的にコアとなる3つの強み「ノート」「同期」「検索」にフォーカスしたミッションの取り組みを行っています。その後は、コア機能周りの根本的な製品の改良とサポートが行き届いていない事業の撤退・廃止予定です。また、2018年にも業績回復に浮いた資金を充てるため54人にレイオフを勧告しています。
Apple Inc.
Apple Inc.は2022年8月、採用人数および採用投資の削減を目的にリクルート社員の多くをレイオフしています。同社は、人材採用において従業員リクルーターと契約リクルーターを採用しており、契約リクルーターを約100人レイオフしました。Appleが100人規模のレイオフを敢行することは珍しく、最高経営責任者であるティム・クック氏は、2022年度第3四半期の業績発表にて当面一部分野の投資や採用を控えるような発言をしています。つまり、業績の伸び悩む事業に対しレイオフを実施したのではないかと考えられています。
まとめ
一時的に従業員を解雇して業績が回復した際などに再雇用するレイオフは、日本ではあまり馴染みがないですがアメリカなどでは日常的に実施されています。一時的とはいえ解雇ということもあり、従業員にとって大きなダメージかと思われますが、転職機会を得られる、退職金などの特別手当などが支給されるといった恩恵が得られます。企業と社員双方のメリット、デメリットを考慮した上で導入を検討してみてはいかがでしょうか。