労働基準法では従業員の休憩時間は自由に使用させなければならないと規定されており、休憩中の外出を禁止することは原則できません。ただし、事業場内に十分な休憩施設があり、使用者から最低限合理的な説明がある場合は外出を許可制にすることが可能です。今回は労働基準法における休憩時間や休憩時間の原則、制限の可否、制度運用上の注意点について解説します。
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休憩時間とは、労働時間において、従業員が労働から離れることを保証された時間です。労働基準法第34条には、使用者の義務として、労働時間が6時間を超え8時間以下の場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩時間をとらせることが明記されています。休憩時間には労働で発生する心身の疲れを回復する目的があり、疲労や集中力の低下などによる労働災害を防ぐためにも、欠かすことはできません。企業の管理者は定められた休憩時間を忘れずに従業員に与えましょう。
休憩時間の原則
従業員に一斉に与えること
休憩時間は原則として、すべての従業員が同時に取得するものとされています。従業員が一斉に休むことで管理者は休憩時間の管理が容易になり、違反があった場合に監督機関による業務実態の把握がしやすいことから、このような原則が定められています。
一斉付与原則の例外
休憩時間の一斉付与原則には、以下のような例外もあります。
- 労使協定
職場によっては個別に休憩を取ることが望まれる場合もあることから、1998年改正により、労使協定を締結すれば一斉付与しなくても良いとされました。
- 特定の職種
休憩時間の一斉付与の原則が適用されない業種もあります。以下の職種は一斉に休憩時間を設けると業務に支障があることから、適用外とされています。
- 通信業
- 映画・演劇業
- 金融・広告業
- 接客娯楽業
- 官公署
- 運輸交通業
- 商業
- 保健衛生業
労働時間の間に与える
休憩時間は労働と労働の間の時間に与えなくてはなりません。たとえば、午前中に3時間勤務して1時間休憩し、午後に5時間働くという形で与えます。休憩時間を返上して帰宅時間を早めることはできませんので注意しましょう。
完全に自由であること
警察官や消防吏員など一部の職種を除き、休憩時間は完全に自由な行動ができる状態でなくてはなりません。これを休憩時間の自由利用の原則といいます。「自由な行動ができる状態」とは、使用者の指揮命令下を完全に離れた状態を指します。待機時間や昼休みの電話当番などがある場合は、指揮命令下を完全に離れているとはいえず、休憩時間には該当しません。従業員に自由な休憩時間をしっかりと付与できているか改めて確認してみましょう。
休憩時間の自由利用の原則について
完全に自由でなければ休憩とはみなされない
休憩時間には自由利用の原則がありますが、企業によってはこの原則を正しく守れていないケースもあります。休憩時間と混同しやすい2つの時間についてそれぞれ解説します。
- 手待時間
手待時間とは、現に業務に従事している訳ではないものの、就労しなければならない状況に至った場合には直ちに就労することができるよう、待機している時間のことをいいます。たとえば、店番や電話番など、お客様が来たり、電話かかってきたりすればすぐに対応しなければならない状況です。一見すると業務を行っていないように見える手待時間ですが、指揮監督下にあるとみなされるため休憩時間には該当しません。
- 仮眠時間
夜勤がある職種では仮眠時間を設けている企業もあります。仮眠時間は休息が許されている時間ですが、業務上のトラブルなどが発生すれば、従業員はすぐに起きて対応しなければならないケースもみられます。このような場合は指揮命令下を完全に離れていないと判断される可能性が高いでしょう。
休憩時間中に制限される可能性のある行動
休憩時間は従業員の自由利用が尊重されますが、プライベートの時間とは異なるため、すべての行動が許されるわけではありません。企業は就業規則に休憩時間に関連したルールを記す必要がありますが、規制される行動については以下のようなものがあります。
- 制服やネームプレートを着用しての外出
制服やネームプレートは社名の表示や、デザインなどからその企業の従業員と容易にわかるため、着用したままで自由行動をすることは、企業の信頼やブランドを損なう可能性があります。そのため、制服を着用して休憩時間中に外出することを禁止している企業は多いようです。
- 物品の販売や選挙活動
休憩時間は自由に過ごせるとはいっても、ほかの従業員の休憩を妨害する恐れのある行為や、職場の施設利用の規律に違反した行為は認められません。そのため、休憩時間の過ごし方について、事業場の規律保持上必要な制限を加えることは、休憩の目的を損なわない限りは可能とされています。
- 社会通念上問題となる行動
特に規律が定められていない場合でも、なにをしても良いという訳ではありません。社会通念上、問題となる行動は控えましょう。たとえば、飲酒や過度な運動は休憩時間に行うべきではありません。モラルや常識から休憩中の行動の是非を考えましょう。
- 施設管理上問題がある行動
来客が頻繁にある職場では、従業員がデスクで昼寝をしたり、食事をとったりする状況が好ましくない場合があります。このようなケースでは、施設管理上に問題があるとして、休憩時間であってもデスクでの昼寝や食事を制限することができます。そのかわり、企業側は別に休憩室を設けるなどの対応が必要でしょう。
休憩時間中の外出について
休憩時間中の外出は基本的に問題ありません。公園でリラックスしたり、役所で用事を済ませたり、従業員は基本的に自由に時間を過ごせます。ただし、社会通念上問題となる行為や就業時間に間に合わないような遠出は避けましょう。
休憩時間中の外出が制限できる場合
事業所内に休憩所などの施設が整っており、従業員が社内で十分に休息できる場合は、外出をある程度制限することも可能とされています。ただし、従業員が労働から完全に解放されて休憩できる環境があることと、外出を制限することに合理的な理由があることが前提とされており、これらの条件を満たさない限りは、従業員に休憩時間中の外出を禁止することは難しいといえるでしょう。社内に十分な休憩室を備えたうえで、外出許可制を採用するなど、従業員の休憩時間の自由利用を損なわないよう最大限に配慮する必要があります。
まとめ
忙しい職場では、休憩時間が短くなったり、休憩時間中に電話やお客様対応をしたりする状況が発生します。このような状況が恒常的になると、従業員が満足に休息できず、思わぬ労働災害の原因に繋がる可能性があります。休憩時間には、従業員を労働から完全に解放することが必要です。そのため、休憩時間中の行動制限についても最小限にとどめ、従業員が心身ともにしっかりと休息できる環境を構築しましょう。