手待ち時間とは、労働時間内において、作業中ではないものの、指示があればすぐに従事できるよう待機している時間のことを指します。手待ち時間は、使用者の指揮下から完全に解放されていないことから、労働時間に該当します。そのため、休憩時間とは区別する必要があるのです。今回は、手待ち時間の定義や、手待ち時間に該当する具体例、労働時間該当性、過ごし方の制限について解説していきます。
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手待ち時間とは
手待ち時間とは、「商店・飲食店の店員が、お客様の来ていない時間にひと休みする」「貨物積み込み係が自動車の到着を待つ間、休憩室で休んでいる」「タクシー運転手が利用客を待つ間、スマホを見る」など、従業員が業務時間中に手が空いたものの、労働から完全に離れずに待機している時間のことをいいます。手待ち時間は、従業員が業務をせず、休憩しているように見える場合もありますが、お客様が来店したり、仕事が発生したりした場合は、すぐに業務に取り掛からなければならないため、業務から完全に開放されているとはいえません。そのため、手待ち時間は、労働時間とみなされるのです。
休憩時間との違い
手待ち時間は、業務から離れある程度自分の好きに過ごせるにも関わらず、労働時間に該当します。それを踏まえると、休憩時間とはどのように定義されるものなのか気になる人もいるでしょう。
休憩時間とは、従業員が使用者の指揮命令下を離れ、自由に行動できる時間とされています。つまり、休憩時間中、従業員は労働から離れる権利を保障されているため、基本的にはどんなふうに過ごしても構わないのです。そのため、合理的な理由が無く休憩場所や過ごし方を制限するのは、違法になる可能性があります。
上記の例でいうと、「貨物積み込み係が自動車の到着を待つ間、休憩室で休んでいる」状態は、自動車が到着次第すぐに業務に取り掛からなければならないため、この従業員は指定の休憩室以外の場所で休むことは禁じられている可能性が高いです。また、どれくらいの時間休めるか予想もつかない場合も考えられるでしょう。このような状態は、休んでいても、完全に業務から離れているとはいえないため、労働時間として扱われます。
手待ち時間の労働時間該当性
手待ち時間は法律上労働時間として扱われるといっても、賃金が発生する以上、企業としては手待ち時間を減らしたいという心理が働きます。そのため、手待ち時間の労働時間該当性については、たびたび裁判の争点になってきました。たとえば、中央タクシー事件(地判平成23年11月30日)では、タクシー会社の運転手が企業に対して「30分以上客待ちをしていた時間分の賃金が未払いである」として提訴しました。運転手はタクシー会社の指定していない場所で客待ちをしていましたが、裁判では運転手が勝訴しました。裁判では「タクシー運転手の客待ち時間はすぐ業務に移る必要があるため労働時間に分類され、企業が指定していない場所にいても労働時間であることに変わりはない」と判断されています。このように、企業の指示が行き届いていない場合であっても、手待ち時間は労働時間という扱いには変わりありません。また、大星ビル管理事件(最高裁平成14年2月28日)においては、ビルの管理人は仮眠中も警報や電話に対して直ちに相当の対応をすることを義務付けられていることから、仮眠時間であっても労働時間に該当すると判断されました。
手待ち時間の具体例
電話や来客応対が必要な休憩時間
休憩時間中に、電話に出たり来客に対応したりする必要がある場合は、休憩時間ではなく手待ち時間とされます。企業側が、休憩中の従業員に対し、電話や来客の対応をさせる場面はよく見られますが、法律上このような状況は従業員に休憩を取らせていないと解釈される場合もあるので気を付けましょう。このような場合は、手待ち時間分の賃金を支払い、完全に業務から解放される休憩時間を必要量確保しなければ、企業による違法行為とみなされてしまいます。
タクシー運転手の客待ちの時間
タクシーの運転手は、常にお客様を乗せて走っているわけではなく、多くの時間停車して客待ちをしています。客待ち時間中はほかの運転手と話したり昼寝をしたりと、さまざまな過ごし方をしていますが、どのような過ごし方をしていても、運転手はタクシー会社からの連絡やお客様が来ればすればすぐ走り出す必要があるため、客待ち時間は労働時間に該当します。
店番の待機時間
飲食店や衣料品店など、接客業店舗の店番の場合、店内で待機している時間も手待ち時間に該当します。来客に備えて常に店にいる必要があるため、来客時にすぐ対応できる状態であれば店にいること自体が業務にあたるとみなされるからです。そのため、手待ち時間中は基本的に何をしていても問題はありませんが、店舗によっては店番中の行動に制限があることもあります。店番中に禁止されている行動をとった場合も、労働時間該当性が否定される訳ではありませんが、労働時間中に禁止行為を行ったとみなされるため、人事考課に悪影響を及ぼしたり、懲戒処分の対象になったりする可能性があります。
手待ち時間のほかに労働時間に該当するもの
始業前の掃除などの準備時間
企業によっては、従業員を始業時刻より早く出社させ、掃除や準備などをさせる場合がありますが、業務に必要な行動は労働時間に該当します。そのため、始業時刻より前に掃除や準備などを行う場合は時間外労働として扱わなければなりません。
同様に終業後の掃除や荷物整理なども労働時間として扱います。朝礼は、任意参加ならば労働時間にあたりませんが、参加しないと査定に悪影響が生じるような場合は労働時間として扱わなければなりません。
作業服への着替え
着用が義務付けられている作業服や保護服などへの着替え時間も、労働時間に該当します。ただし、従業員が自宅から制服に着替えて出勤できる場合は、着替え時間は労働時間にあたりません。着替え時間が労働時間になるのは、制服への着替えを、企業が指定する更衣室で行わなければならないなど、制服での出勤が事実上困難である場合です。
受講義務のある研修
研修や教育訓練などへの参加は、受講義務がある場合、労働時間として扱われます。直接的に義務付けられていない場合でも、参加しないと業務を行ううえで不利益が生じるなど、事実上参加が必須になっている場合も労働時間とみなされます。特に、その研修が、業務内容に関わる内容や職場環境の維持に必要な内容の場合は、明白な業務命令がなくとも労働時間として扱われなければなりません。
一方、自由参加であると明示されている研修や慣例的に自由参加になっている研修に参加する場合は、労働時間とは扱われません。
手待ち時間について判断が難しいケース
- 手待ち時間中にスマホを見たり本を読んだりしている
- 手待ち時間で法定労働時間を超えた場合
- 手待ち時間にほかの仕事を指示してもいい?
- 移動時間は手待ち時間に入る?
企業によっては、労働時間中のスマホや読書は、勤務態度として望ましくないと考えている場合もあります。法律上では、手待ち時間中は、必要に応じてすぐ業務に戻れる状態であれば何をしていても構わないとされていますが、労働時間である以上、企業は手待ち時間中の過ごし方についても指定することができます。
手待ち時間は労働時間に含まれるため、手待ち時間と勤務時間を合計して法定労働時間を超える可能性もあります。法定労働時間を超えた場合は、従業員に割増賃金を支払わなくてはなりません。
手待ち時間中、企業は従業員に対して、ほかの仕事を行うように指示できます。しかし、指示する内容が労働契約外の場合は、従業員の同意を得る必要があります。基本的には労働契約に含まれていない業務はさせない方が無難でしょう。
出張や業務上必要な場合に、勤務中に長時間の移動が発生することがあります。このような移動時間も、従業員が雇用者の指揮下に置かれていると認められれば、手待ち時間として労働時間に該当します。所定労働時間の間に移動したり、移動中に業務を行ったりしている場合は労働時間になると覚えておきましょう。
まとめ
「身体を休めていれば休憩時間になる」と認識している人は少なくありません。そのため、実質的に手待ち時間であるにもかかわらず休憩時間として無賃金扱いにしたり、休憩時間中に電話番を兼ねさせたりする企業は多いものです。手待ち時間や休憩時間の定義を正しく理解し、法律に抵触しない企業運営を心がけることが大切です。