「朝方勤務」とは、始業時刻を繰り上げ、繰り上げた分退社時刻を早める取り組みをいいます。残業時間抑制策としても効果的なことから、2015年以来、政府からも推奨されてきました。今回は朝方勤務の仕組み、そのメリット・デメリット、向いている職種について解説します。
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朝方勤務とは
朝方勤務とは、働き方に関する制度のひとつです。始業時間を早め、その分早く退勤できるようにすることで、通勤ラッシュを避けたり、業務の効率性を追求したりする効果が期待されています。
2019年4月より「働き方改革関連法」の改正が実施され、日本におけるさまざまな労働環境の課題への取り組みが進んでいます。法的義務となった年次有給休暇の取得をはじめ、ノー残業デイや在宅ワークなどの取り組みが様々な企業によって実現されてきました。朝方勤務も、こうした残業時間を抑制し、ワークライフバランスを向上させる目的で提唱されている働き方です。
朝方勤務が注目される背景
朝方勤務は、2015年に内閣総理大臣から日本経済団体連合会会長へ向けて発せられた「夏の生活スタイル変革」に関する要請書のなかにおいて初めて提唱されました。欧米で定着している「サマータイム制度」からヒントを得たこの取り組みは、のちに「ゆう活」と名付けられました。ゆう活では、日照時間の長い夏の間は、朝早くから働き始め、夕方は家族との時間やプライベートのために使うことを勧奨しています。ゆう活の最終的な目標は、個々人がライフスタイルに合わせて働ける環境を構築することとされており、長時間労働を抑制するためのルールづくりを促す効果が期待されました。実際に、大企業をはじめさまざまな実施例が生まれ、朝方勤務の有用性は広く認識されています。
また、2019年末より世界中を震撼させた新型コロナウイルス感染症の流行は、日本における働き方に大きな変化を与えました。定時出社・帰社の概念が崩され、時差出勤やフレックスタイム、テレワークなどが感染防止策として取り入れられています。感染防止を目指した結果、日本企業における働き方の柔軟性は大きく進歩したといえるでしょう。朝方勤務を実施する企業も増加し、残業時間の削減やワークライフバランスの向上に効果を発揮しています。
朝方勤務が向いている職種
朝方勤務は、どの業種・職種にも適用できる訳ではありません。店舗などのように開業時間が定まっている事業や、顧客対応をしなければならない職種、シフト管理されている職種、夜間に行わなければならない業務がある場合などは、勤務時間を早めようとしても難しい場合があるでしょう。例えば、テレワークなどとも相性の良いエンジニアやクリエイティブ関連職であっても、客先常駐などの場合は思うように働き方が変えられないかもしれません。
逆にいえば、このような特別な事情がない限りは、さまざまな業種において朝方勤務の導入が検討できるといえるでしょう。
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朝方勤務のメリット
通勤ラッシュを避けられる
通勤時間帯の混雑を避ける目的で、朝方勤務を導入している企業は少なくありません。特に、新型コロナウイルスの流行以降は、人との接触や「3密」状態を避けるため、通勤時間や方法に気を遣う企業は増えました。また、日本の首都圏における通勤ラッシュの混雑ぶりは問題視されており、人々の大きなストレスの原因にもなっています。朝方勤務の導入により通勤ラッシュが避けられれば、通勤の負担を軽減できるでしょう。
仕事の質を高められる
一般に、睡眠時間が十分にとれている状態においては、人間の脳が最も活発に働くのは早朝といわれています。朝から昼にかけて業務に集中することにより、仕事の効率性や生産性の向上が期待できます。また、朝方勤務は夕方以降の残業禁止とセットで実施することが重要です。これにより、限られた時間内で業務を完了させようとする意識が働きやすくなるでしょう。
ワークライフバランスが改善される
早く出勤した分、仕事が早く終わるため、プライベートな時間が増えます。家族とのコミュニケーションや趣味などを楽しむ時間が生まれ、生活への充実感につながるでしょう。また、自由な時間が増えることで、資格の勉強など自己成長のための行動をする余裕が生まれます。意欲的な挑戦をする従業員が増えれば、組織が活気づき、企業にとっても良い影響があるでしょう。
早起きにより、健康的な生活が送れる
朝方勤務が定着すれば、自然と夜更かしが減り早起きする習慣がつきます。整った生活習慣は、従業員の健康維持にも効果があるでしょう。最近では従業員の健康を、企業の重要な経営方針と位置付ける「健康経営」の考え方が広まっています。朝方勤務の導入は、健康経営の観点からも評価されるポイントになるでしょう。
経済の活性化に寄与する
時間の余裕は、人々のさまざまな消費行動を生み出します。飲食店の利用や買い物の機会、ジムや英会話教室などサービスの利用など、これまでにない経済活動の機会が創出されます。盛んな消費行動は、お金を稼ぐ意欲にもつながるため、仕事に対してもポジティブな気持ちが醸成されるはずです。
朝方勤務の注意点
法定労働時間を超えれば残業として扱われる
朝方勤務は、所定労働時間を前倒しする制度なので、実際の労働時間に変化はありません。しかし、朝方勤務の時間帯によっては割増賃金の支払い義務が発生する可能性があるため、注意しましょう。一般に、午後10時から翌日午前5時までの間は「深夜業」と呼ばれ、通常の賃金に2割5分以上の割増賃金を上乗せしなければなりません。午前5時前に出社させる場合は、割増賃金の支払いを忘れないようにしましょう。
また、朝方勤務をしたにもかかわらず、終業時刻がこれまでと変わらなければ、法定労働時間をオーバーする可能性があります。朝方勤務を導入する場合は、終業後は速やかに帰宅し、残業を原則禁止するなどのルールを設けましょう。
帰りにくい雰囲気がある
朝方勤務をすれば、当然終業時刻は早まります。しかし、夕方の早い時刻に帰宅して良いといわれても、まだ業務中の周囲を気にして帰りにくいと感じる人は多いようです。結果、朝の勤務に加えて残業をすることになってしまえば、長時間労働の抑制にならないばかりか、従業員の疲弊に繋がりかねません。自分の仕事が終われば帰宅できる雰囲気づくりが必要です。
かえって睡眠不足になる
朝方勤務は、終業時刻が早まることでプライベート時間の創出につながります。楽しみの時間が増えるのは良いことですが、かえって夜更かしが増え睡眠時間が短くなる心配もあります。例えば、遅くまで飲み会をしたり、趣味に時間を取り過ぎたりする状況です。睡眠不足は作業効率の低下や体調不良を招く原因にもなるため、注意が必要です。とはいっても、従業員の終業後の時間まで企業が管理することはできないため、朝方勤務を導入する際は、自社の従業員の傾向なども十分考慮する必要があるでしょう。
朝方勤務の導入が難しいケースもある
経営上、朝方勤務を導入しても問題ない企業であっても、メイン顧客に連絡が付きやすい時間が夕方以降という場合もあります。朝方勤務の導入を決断する際は、実際に働く従業員にとって本当にプラスになるかどうかを判断しなければなりません。
また、育児中の家庭にとっては、生活リズムの変更は簡単なことではありません。保育所の営業時間の関係もあり、状況的に朝方勤務が不可能な従業員もいるはずです。全員に強制するのではなく、各々の事情に寄り添って柔軟に使える制度にしましょう。
まとめ
朝方勤務制度は、所定労働時間をずらせば良いだけということもあり、企業側も実施しやすい施策といえるでしょう。うまく運用すれば長時間労働の抑制や従業員のワークライフバランスの充実にもつながる、非常に有効な制度です。
朝方勤務は、導入する企業の業種などの条件によって、導入効果がはっきりとわかれる制度でもあるため、メリットとデメリットをしっかり把握したうえで、導入を検討しましょう。