働き方改革関連法の制定により、残業時間が以前より厳しく規制されるようになったため、企業は残業削減に向けた取組を進める必要があります。残業時間を減らす有効な手段として、残業申請のルールを規定するという方法が考えられます。残業申請を規定する際には、黙字的指示にも留意してトラブルを防ぎましょう。今回は、残業申請のルールを規定するメリットと導入方法、注意点、黙字的指示の意味と具体例について解説していきます。
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正しい残業管理ができていないと、労使トラブルへの発展や余分な残業代の付与などが発生する可能性があります。例えば、業績を上げるために残業を評価対象としていたり、法定労働時間内に終わらない業務量を与えたりしていると、労使トラブルに発展しかねません。明確なルールが定まっていないことで、残業手当を受けるために雑談などで会社に居残り、残業したことにする社員も出てくるでしょう。明確な残業申請ルールを規定しないと、企業はさまざまなリスクを負うことになるのです。
残業申請ルールの規定がもたらす3つのメリット
生産性の向上
残業申請によって、上司は部下の業務内容を把握し、残業の必要性があるかどうかを判断できます。業務量を調整することによって効率化を図ることができるので、生産性が向上するでしょう。社員自身も残業時間を意識するため、仕事への取り組み方を見直すきっかけになります。
残業代の削減
残業申請を導入すると、1ヶ月の大まかな残業時間を設定し、その時間内で遂行できる業務量に調整することになります。上司と部下が綿密にコミュニケーションをとってしっかり調整すれば、残業時間を減少させ残業代を抑えることができます。
業務時間の管理
ルールを設けていれば、働き方改革による残業時間の上限規制を超えないように、業務時間を調整することができます。月初めから適切に管理していれば、月末に残業時間が超過していることが判明して対応に追われる、という事態を防げるでしょう。
残業申請ルールの規定を導入する方法
事前の準備
ルール導入に際して、労務や人事担当者は、経営陣や管理職の理解をまず得なければなりません。残業を管理しないことによって生じる不利益をデータ化し、明確に伝える必要があります。理解を得られたら、申請の承認権限を有する人を取り決め、申請期限などを周知しましょう。スムーズな導入を実現するには、このような細かい事前準備が不可欠です。
残業申請の規定作成
就業規則には、残業は原則として事前申請しなければならないということを明記しましょう。また、詳細な規則についてルールブックなどを作成し、社内全体に周知する必要があります。残業申請は15分または30分単位に規定します。申請は所定労働時間終了より前に行わなければならない点も強調しましょう。
残業申請書の書式作成
ルールが確定したら申請書の書式を作成し、社員が使用できるように共有します。申請書には以下を記入する欄を設けなければなりません。
- 残業予定時刻と残業理由
- 上司の承認
- 実際に要した残業時間
- 上司の確認
申請書は、紙でもWEBでも管理可能です。申請書は労使トラブルが発生した際の重要な判断材料となるため、いずれの管理方法を採用したとしても、日頃からしっかり管理しておく必要があります。
残業申請ルールを規定する際の注意点
残業申請ルールはただ導入すれば良いのではなく、適切な内容で継続されるものでなければなりません。ルール規定後も残業する社員がいれば、ヒアリングして原因を突き止める必要があります。
今まで残業によって業務を終えていた会社にとっては、残業申請ルールの導入はハードルが高いかもしれません。まずは上司や部下としっかりとコミュニケーションをとって、解決策を探ることから始めましょう。最初から時間規定を厳しく設定するのではなく、業務量の調整にかかる時間を考慮して、徐々に残業時間を削減するのがおすすめの方法です。
黙字的指示とは
ただ残業を禁止するだけでは、残業時間を有効に減らすことにはなりません。業務量の調整など、ルールの導入とあわせてそれ相応の対策を講じないと、「黙示的指示」があったとされ、残業手当の支払いが必要になることがあります。
黙字的指示の概要
「黙示的指示」とは、上司から直接指示がなかったとしても、指示があるものとして行動せざるを得ない状況に置かれることを指します。例として、法定時間内に終わらない業務量を与える、残業しなければ達成できないような高いノルマを設定する、などが挙げられます。
近年、この黙示的指示によって残業をする社員が増えています。多くの企業が売上維持と働き方改革の板挟みになり、所定時間内に業務を終わらせるための具体的な解決策を見出せないまま残業を規制しているのが現状です。
黙字的指示のリスク
原則として、残業命令を出していない残業分の賃金を支払う義務はありません。ただし、残業申請ルールを設けているにもかかわらず法定時間内に終わらない業務量を与え、残業を余儀なくされている社員がいることを把握していた場合、黙示的指示とみなされ残業代の支払い義務が生じます。
黙示的指示によって会社が受ける損害は、残業代の支払いだけではありません。労使トラブルが明らかになれば、会社の評判も悪くなるでしょう。離職者が増えたり、就職希望者が減ったり、場合によっては取引先から契約を打ち切られてしまうかもしれません。労使トラブルに発展すれば多くの犠牲を払うことになるので、残業は日頃から適切に管理しなければなりません。
黙字的指示の具体的事例
- 事例1:残業を命じた時間数と実際に要した時間数が異なっていた事例
- 事例2:残業申請ルールを設けていたが、申請できない状況で残業をさせた事例
2時間の残業で書類を作成するように社員に命じたところ、作成する過程で問題が生じて、結局3時間半を要したと翌日報告を受けた事例です。本来であれば、使用者の指示がない残業は時間外労働に当たりませんが、完成期日が迫っていた場合は残業せざるを得ない状況に置かれたことになります。従って、この事例では3時間半の割増賃金を支払うことになりました。
残業する際は18時までに申請しなければならないというルールが設けられているA社で、業務を委託されたB社の社員が申請せずに残業をしたという事例です。業務量が膨大であることについて、以前にもA社はB社から指摘を受けていました。それにもかかわらず改善しなかったことを受けて、裁判所はA社に残業代の支払いを命じました。
まとめ
残業申請ルールは、正しい残業管理を行うために規定されるものです。規定内容は適切に取り決められ、継続して運用されることが重要です。この機会に業務量を調整し、適切なルールを規定して残業削減に取り組んでくださいね。
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