内部通報制度とは、従業員が社内で行われている不正行為や法令違反などを匿名で相談するための窓口を、組織内に設置する制度です。2020年6月に公益通報者保護法が改正され、一定規模以上の企業・団体には、内部通報制度の整備が義務付けられることになりました。残業時間や給与に関する不正行為がしっかりと通報されることにより、自浄作用も見込めるため、制度をうまく活用していくことが大切です。今回は、公益通報者保護法の概要や内部通報と内部告発との違い、通報制度を利用してもらうためのポイントについて解説します。
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内部通報と内部告発の違い
内部通報と内部告発には、どのような違いがあるのでしょうか。まず、内部告発とは、社内で起こった不祥事や不正、違法行為などについて、内部の従業員などが直接行政や司法、消費者団体、報道機関などに相談・通報することをいいます。すなわち、社内で対処や改善を行う前に、外部に知られてしまうということになります。内部告発が起これば、社内で検証する猶予すら与えられないまま、不祥事が白日の下に晒され、行政処分などの対象になってしまうでしょう。一方、内部通報の場合は、社内の窓口に対して相談・通報がされるため、企業イメージを損なう前に対処・改善できる余地が残されています。
公益通報者保護法では、内部告発をした通報者を保護するとともに、企業には内部通報制度を整備し、自社において公正な解決ができる仕組みづくりを促しています。
公益通報者保護法成立の背景
2000年頃から、製造業のリコール隠しや食品偽装などの、消費者の安全・安心を損なう危険性のある企業不祥事が、内部告発によって明らかになるケースが相次ぎました。このようななか、問題となったのが、内部の通報者が、通報したことによって解雇や降格、減給などの不利益な扱いを受けやすいという事態です。そこで、通報者がどこへどのような内容の通報を行えば保護されるのか明確にする目的で制定されたのが、公益通報者保護法です。この法律は、2004年6月に公布、2006年より施行されています。
公益通報者保護法改正によってなにが変わったのか
2020年6月に、公益通報者保護法は改正されています。改正前には定められていなかった、公益通報対応業務従事者の守秘義務や、外部通報の保護要件の緩和、保護される通報者の対象拡大などについて、項目が追加されました。また、今回の改正では、企業に対して、公益通報対応業務従事者の設置と、公益通報に適切に対応する体制の整備が義務づけられています。いわゆる、「内部通報制度」の整備が、一般企業のほか、地方自治体や公益法人、学校法人、医療法人、社会福祉法人に義務付けられたということです。ただし、従業員が300人以下の事業者については努力義務とされています。
改正法の施行日は、公布の日である2020年6月12日から起算して2年を超えない範囲内とされています。すでに内部通報制度を導入している企業は少なくありませんが、未整備の対象企業は導入を急ぐ必要があるでしょう。
内部通報制度の導入で得られる効果
不祥事の予防、早期発見が可能
内部通報制度の最大の目的は、リスクの早期発見です。放っておけば重大な不祥事になりかねない不正行為も、早期に適正な対処ができれば、被害の拡大を防ぐことができます。
社内の不正や違法行為などにいち早く気付くために、重要なのは現場の従業員の声にほかなりません。消費者庁の報告によれば、不正行為を発見するに至った経緯の第1位は、内部通報によるもので、全体の58.8%に及んでいます。このように、内部通報制度の整備によって、問題が重大化する前に対処することが可能になるのです。また、社内で内部通報制度について周知することで、不正を行おうとしている者に対する抑止力にもなり、予防にもつながります。
外部機関への通報を防ぐことが可能
内部通報制度が無い企業の場合、従業員が周囲で行われている不正や違法行為について知り得たとしても、社内には通報できる場所がありません。通報しようとしている不正・違法行為が、組織ぐるみで行われている場合はもちろんのこと、パワーハラスメントなどの人間関係の問題では、社内に相談できる相手すらいないケースも考えられます。このように、社内に相談・通報する場所がなければ、従業員が社外の行政機関や消費者団体、報道機関などに通報する可能性は高くなります。内部通報制度が無いことにより、企業の自浄努力の道は断たれ、外部からの糾弾を受ける事態に発展してしまうでしょう。
公益通報者保護法でカバーされない相談を受け付けることが可能
公益通報者保護法では、通報の対象が特定の法律に違反する犯罪行為に限定されているため、対象ではない法律に違反する事実を通報しても、公益通報にはあたりません。しかし、公益通報にあたらないとはいっても、企業の安定的な経営活動を脅かすリスクについては、早期発見し、対処していきたいものです。このように、社内で発生した小さなトラブルに関しても、従業員の声をすくい上げる機能として、内部通報制度は重要です。
内部通報制度導入のポイント
仕組みの整備
内部通報制度の導入には、企業全体で取り組むことが大切です。ポイントは以下の通りです。
- 通報窓口などを整えること
- 通報を受け、調査や是正措置を行う際には、縦割りの組織単位で行うのではなく、部署間における横のつながりを持って全社的に行うこと
- 経営者が責任を持って再発防止の対策をとること
通報窓口は、ただ従業員の相談に耳を傾ける機関ではありません。通報を受けた後は、調査から再発防止までの一連の流れを適切に運用できるように、整備する必要があります。経営者や役員の果たす役割は、内部規定などに明文化しておくと良いでしょう。
経営陣から独立した通報ルートを設置する
従業員が通報しやすくするためには、社内に窓口を設置するだけではなく、上司を経由せずに経営幹部への通報ができる仕組みが必要です。また、それとは別に、弁護士事務所などに委託した社外の窓口や、社外取締役や監査役など経営幹部を経由せずに通報できるルートも整えると良いでしょう。通報できる窓口の選択肢を広げることによって、さまざまな事柄について情報を集めやすくなります。
制度をすべての労働者に周知する
制度を整えたら、従業員に十分に周知することが重要です。ここでいう従業員とは、正社員だけではなく、契約社員、アルバイト、パート、派遣社員などを含みます。今回の公益通報者保護法の改正においても、保護される通報者の範囲が拡大され、退職後1年以内の退職者や、役員が追加されています。社内に内部通報制度を設ける際も、より広い範囲の従業員から情報が集まる仕組み作りが大切です。
内部通報制度を利用してもらうポイント
通報に関する対応の徹底
通報を迷う1番の理由は、通報したことで自分が不利益を被るのではないか、という不安です。そのため、通報者の特定につながる可能性のある情報は、必要最小限の共有を徹底しましょう。また、通報者を探索する行為なども行わないよう、経営者や役員、従業員すべてに教育する必要があります。通報者の関する秘密は間違っても流出しないよう、対応方法を規定しておきましょう。
通報後は公正な検討・調査が必要
通報を受けた後は、通報内容について調査や検証の必要性を検討します。内部通報される情報については、公益通報者保護法には該当しない内容もあるためです。なかには、調査をするに値しないと思われる些末な通報内容があるかもしれませんが、この際にも公正な判断をすることが重要です。「相談してもなにも対応してもらえなかった」と、制度が形骸化しないように、従業員からの相談には真摯な対応が求められます。
まとめ
組織内においては、その企業文化や事業内容によって不正が不正と思われず蔓延してしまう事態も考えられます。例えば、慢性的に長時間労働が蔓延っているような企業体質の場合、従業員がストレスを蓄積し、労働基準法違反を通報するといったケースなども考えられます。企業や人が罰せられる事態になる前に、是正措置やその後の防止対応がきちんと行えるような仕組みを作り、自浄作用を生み出せるような風土づくりを心がけましょう。