遅刻や早退、代休などで本来労働をする時間に労働が発生しなかった場合、残業代と相殺することはできるのでしょうか?遅刻などをした場合に残業代を相殺できるかは、そもそもの残業代の考え方を適切に理解する必要があります。正しい取り扱い方法を理解しないと無意識に労働基準法違反をしてしまう場合がありますので、考え方を適切に理解しましょう。今回は残業と残業代の考え方、遅刻や早退、代休の場合の残業代の計算方法、働き方等による注意点について詳しく解説します。
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そもそも残業と残業代とは
残業とは、会社で定めた「所定労働時間」を超える時間を指します。一方、法律上の「時間外労働」は労働基準法で定められた「法定労働時間(1日8時間・1週40時間)」のことです。例えば、就業時間が9時から17時半で休憩時間を1時間設けている会社では、所定労働時間は7時間半となります。18時まで仕事をした場合の残業は30分になりますが、法律上の時間外労働は発生しません。残業代の算定基準を「所定労働時間」を超える時間とするか、「法定労働時間」を超える時間とするかは労使の定めによります。
残業における割増賃金の計算方法
残業手当および時間外手当の支払う条件や割増率は以下のとおりです。
種類 | 支払う条件 | 割増率 |
---|---|---|
時間外 | 法定労働時間を超えた場合 | 25%以上 |
36協定の限度時間(1ヶ月45時間、1年360時間)を超えた場合 | 25%以上 | |
時間外労働が1ヶ月に60時間を超えた場合 | 50%以上 | |
休日 | 法定休日に勤務させた場合 | 35%以上 |
深夜 | 22時から5時までの間に働かせた場合 | 25%以上 |
遅刻や早退、代休に相当する賃金を残業代で相殺できる?
遅刻の場合、同日内の相殺は可能
遅刻した当日の労働時間が8時間以内であれば、残業代の帳消しが可能です。例えば、1時間遅刻をした日に、1時間残業した場合、その日の労働時間は法定労働時間内であるため残業代は発生しません。一方、1時間遅刻をした翌日に1時間残業した場合は、8時間以上労働したことになるため残業代が発生します。例外として、変形労働時間制を採用している場合は残業の付け替えが可能になる場合があります。変形労働時間制とは、労働時間を月単位・年単位で調整し、繁忙期などに勤務時間が増加しても残業として扱わない制度です。この制度を正しく運用していれば、法定労働時間の規制を修正できるため変形労働時間制の枠内であれば他の日の残業の付け替えが可能です。
早退した分を翌日の残業で相殺することはできない
労働基準法では、1日の労働時間が8時間を超える場合に残業代の支払いを義務付けています。したがって、早退した分を翌日の残業で帳消しにすることはできません。例えば、2時間繰り上げて早退した次の日に2時間残業した場合、労働時間は10時間となるため、2時間分の割増賃金が発生します。結果として、早退した日の賃金は労働時間が減った分だけマイナスとなり、次の日は労働時間に応じて2時間分の残業代が加算されます。
代休にして残業と相殺するのは違法
例として、平日の就業時間を9時から18時まで(休憩時間1時間)とし、そのうちの4日間で20時まで働いた際に、残りの1日を代休にして残業と相殺する会社があったとします。1週間の労働時間だけ見れば40時間となりますが、4日間は2時間ずつ残業をしているため、企業はその分の割増賃金を支払わなければなりません。つまり、代休にして残業を帳消しにした場合は労働者が残業をしているにもかかわらず割増賃金を支払っていないことになるため違法となります。
働き方等による注意点
遅刻したことを理由に必要のない残業を求めることはできない
遅刻した時間分を残業によって帳消しにすることは可能ですが、遅刻を理由に必要のない残業を求めることはできません。就業規則に所定労働時間を超えた場合、あるいは法定労働時間を超えた場合のどちらに割増賃金を支払うかを明文化しておくことも重要です。所定労働時間を7時間30分としている場合、法定労働時間と時間が異なるため、遅刻分の相殺をする際に割増賃金の計算が困難になります。
未払いの残業代をボーナスと相殺することはできない
残業代は時間外労働に対する賃金であるのに対し、定期給与と別に支給する給与ボーナスは全くの別ものであるため、未払いの残業代をボーナスで帳消しにすることはできません。また、残業代を受け取ったからといってボーナスを減額することも違法です。未払いの残業代をボーナス月にまとめて支払う場合は、賃金の毎月払いの原則に反するため残業代とあわせて遅れて支払う分の利息を支払う必要があります。
年俸制でも残業代を請求できる
年俸制とは、給与の額を1年単位で定めておく給与体系で、支給方法は毎月払いの原則が適用されます。年俸制であっても労働基準法が適用されるため、従業員が所定労働時間を超えて残業を行った場合は残業代を支払わなければなりません。なお、みなし残業制や裁量労働制が採用されている場合や管理監督者の場合のように、残業代を支払う必要がないケースもあります。しかし、みなし残業時間以上働いた時間や、裁量労働制においてあらかじめ定めた労働時間が法定労働時間を超える場合はその部分の残業代が発生します。
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まとめ
遅刻した場合、同日であれば残業で帳消しすることが可能です。法定労働時間は1日8時間と定められているため、翌日1時間残業したとしても労働時間が8時間を超えることになり、残業での相殺はできず残業代として割増賃金が発生します。法定労働時間に基づき、早退や代休も翌日以降の調整は不可です。残業と相殺について労働者と認識の違いが生じないように、就業規則に残業代の取り扱いについて明文化しておきましょう。