原則として、企業は1分単位での勤怠管理が義務付けられています。残業時間に関しても同様で1分単位で計算した残業代を支払う必要があります。そのため、5分や15分単位での労働時間の切り捨て処理は原則違法となります。しかし、現実的な給与計算を行うにあたっては、計算の簡略化のため特定の条件においては端数処理が認められます。今回は、残業時間の端数処理について、違法になる場合と認められるケース、企業が行うべき対応について解説します。
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そもそも残業時間とは
従業員を雇用し働かせている使用者が労働者に課すことができる労働時間は、労働基準法第32条の規定に従い1日8時間・週40時間までです。使用者が労働者に対し課すことのできる労働時間の上限を「法定労働時間」といい、これを超える労働は「時間外労働」に該当します。時間外労働を課す場合は、労使間で「時間外・休日労働に関する協定届」、いわゆる「36(サブロク)協定」を締結し、所管の労働基準監督署に届け出る必要があります。なお、時間外労働は一般的に残業とも呼ばれ、残業を課した場合使用者は労働者に対し労働基準法第37条に基づき割増賃金を支給しなければなりません。
残業時間の端数切り捨ての考え方
労働基準法第24条には「賃金は(中略)その全額を支払わなければならない」との条文があります。残業についても、この賃金全額支払いの原則が適用されるため、残業時間を切り捨てしたり四捨五入したりすることは違法です。ただし、事務処理を簡便にする目的のため、行政通達「基発第150号労働基準法関係解釈例規について」では一定の端数処理が認められています。具体的な端数処理の内容は次のとおりです。
- 1ヶ月あたりの時間外、休日、深夜労働の合計に1時間未満の端数が生じた場合、30分未満の端数は切り捨て、30分以上の端数は1時間に切り上げる
- 1時間あたりの賃金額および割増賃金額に1円未満の端数が生じた場合、50銭未満の端数は切り捨て、50銭以上の端数は1円に切り上げる
- 1ヶ月あたりの時間外、休日、深夜労働の割増賃金の総額に1円未満の端数が生じた場合も同様の端数処理とする
遅刻・早退・欠勤などの端数処理
遅刻・欠席・早退などで労務が提供されなかった場合は、民法624条に従い使用者は労働者に対し賃金を支払う必要はありません。これをノーワーク・ノーペイの原則といいます。ノーワーク・ノーペイの原則に従い賃金を控除する際は、1分単位での計算が必要です。その際、1分未満の端数は切り捨て、端数の切り上げは行わないようにしましょう。端数を切り上げてしまうと、逆に賃金全額払いの原則に反してしまうためです。一方、労働基準法第91条に従い減給の制裁を科す場合は、この限りではありません。例えば、5分遅刻した場合、制裁として1時間分の賃金を控除することも可能です。ただし、減給の制裁を科す場合は事前に就業規則に定め、1回あたりの控除額が平均賃金1日分の半額以下かつ、総額が給与1回につき10分の1以下でなければなりません。
残業時間の端数切り捨てのケーススタディ
違法になる場合
前述した通り、残業時間は1分単位で計算し割増賃金を支給する必要があります。なぜなら、労働基準法第24条には賃金全額払いの原則について規定されているからです。加えて、残業時間の端数を切り捨てることは、労働基準法第37条に規定された割増賃金の支給義務にも違反します。例えば、15分未満の残業時間を切り捨てる事務処理は、労働者の不利益となるため違法です。違反した場合は、労働基準法第119条・第120条に従い罰則が科されるため十分注意しましょう。
認められる場合
一方、1分単位の計算は事務処理が煩雑になるため、1ヶ月あたりの時間外・休日・深夜労働の合計に対し、30分未満の端数は切り捨て、30分以上の端数は1時間に切り上げる処理は認められています。例えば、1ヶ月間の残業時間の合計が35時間25分だった場合、端数を切り捨て35時間として処理することは可能です。また、1ヶ月間の残業時間の合計が35時間35分だった場合に、端数を切り上げ36時間として処理することもできます。ただし、端数処理は必ず1ヶ月あたりの合計に対して行うことが必須となり、日ごとの残業時間に対し端数処理を行うことは違法です。例えば毎日24分残業した場合、残業時間は0時間ではなく8時間(月20日出勤した場合、残業24分×20日÷60分)になりますので注意しましょう。
残業時間の端数切り捨てにおいて企業が行うべき対応
1ヶ月間の労働時間における端数のルールを決める
労働時間は原則1分単位で管理しなければなりませんが、事務処理を簡便にする目的で一定の端数処理が認められていることをご紹介しました。さらに、賃金計算上端数が生じた場合は下記の端数処理が可能です。
- 割増賃金の計算
- 平均賃金の計算
- 1ヶ月の賃金計算
- 1. 1時間あたりの賃金額および割増賃金額に1円未満の端数が生じた場合、50銭未満の端数は切り捨て、50銭以上の端数は1円に切り上げる。
- 2. 1ヶ月あたりの割増賃金の合計に1円未満の端数が生じた場合も、1と同様の処理とする。
- 3. 賃金の総額を総暦日数で除した金額から1銭未満の端数を切り捨てる。なお、平均賃金に基づき各種手当等を計算する場合は、特約がなければ端数処理は1と同様とする。
- 4. 各種控除後の1ヶ月の賃金額に100円未満の端数が生じた場合、50円未満の端数は切り捨て、50円以上の端数は100円に切り上げて支払うことが出来る。
- 5. 1ヶ月の賃金額に1,000円未満の端数が生じた場合、その端数を翌月の給与に繰り越して支払うことが出来る。
まずは、労働時間および賃金計算における端数処理のルールを策定しましょう。残業時間の端数処理については、適切な管理が可能であれば端数処理を行わず、1分単位で割増賃金を支給することも可能です。端数処理を行う場合は、労働基準法および行政通達にのっとりルールを決めるとよいでしょう。
端数処理のルールを就業規則に記載する
端数処理のルールが決まったら、就業規則に記載しましょう。その際に労働時間および賃金計算の切り捨て・切り上げ・繰り越しなどのルールが、労働基準法に適した内容であるかの確認が必要です。特に注意が必要なのは、遅刻などに対し減給の制裁を科す場合です。遅刻・早退・欠勤は原則1分単位で計算する必要がありますが、就業規則に罰則規定を明示しておくことで、端数処理を行うことができます。
勤怠管理システムを導入する
企業規模の拡大や多彩な勤務形態の導入に伴い、正確な勤怠管理はより一層重要になっています。日ごとの残業時間については1分単位で管理しなければならないため、手書きの出退勤管理では負担が大きく、運用に限界があります。記載ミスや計算ミスなどのヒューマンエラーも避けられません。そこでおすすめなのが、勤怠管理システムです。勤怠管理システムでは、日々の出退勤時間の打刻だけでなく、労働時間の集計も自動で行います。複雑な端数処理も自動で行ってくれるため、バックオフィス業務の効率化にも有効です。
まとめ
残業時間の切り捨てについて解説しました。労働基準法には賃金全額支給の原則が規定されているため、残業時間の切り捨ては違法です。一方、事務処理を簡便にする目的のため、一定の端数処理は認められています。ただし、日ごとの残業時間については1分単位の管理が必要とされ、切り捨てを行うことは違法となります。簡単に端数処理を行うには、勤怠管理システムの導入がおすすめです。勤怠管理システムを利用し、労働基準法に適した勤怠管理を行いましょう。