私傷病休職とは、仕事以外の理由で社員が怪我や病気を負った場合に、雇用を維持したまま一定期間の勤務を免除する制度です。社員は回復後に復職することができますが、一定期間を超えても回復しない場合には、退職や解雇の扱いになることが一般的です。法律上の取り決めがない制度ですので、期間や休職事由、給与補償の有無などはあらかじめ就業規則に明記しておきましょう。今回は、私傷病休職制度の意味と休暇との違い、導入するメリット・デメリット、導入の際のポイントについて解説していきます。
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私傷病とは「業務外で発生したケガや病気」のことです。帰宅後や休日にケガをしてしまった場合や、業務内容とは関係のない病気がこれにあたります。
私傷病休職制度は、一般にいう「休職制度」のなかで私傷病を理由にしたものです。業務中のケガや通勤途中の事故であれば、業務上の災害として労災保険の補償が受けられます。労災の場合、労働基準法により会社には休業期間とその後30日間は解雇制限が課せられます。ところが、業務と関係のない私傷病の場合は、働けなくなった社員を雇い続ける義務は会社にはありません。それでは私傷病休職とはどのようなものなのでしょうか。
会社によって異なる制度
私傷病休職制度は会社独自の制度であるため、内容に決まりはありません。有給でも無給でも良いとされていますし、日数や詳細なルールもそれぞれの会社で特色があります。具体的には、私傷病休職制度には以下のようなものがあります。
- 時間単位や半日単位で取得できる休暇制度
- 年次有給休暇を組み立てて、長期療養のときに使える失効年休積立制度
- 年次有給休暇とは別の病気休暇
- 療養中・療養後の短時間勤務制度
傷病手当金
私傷病休職は会社独自の制度なので、休職中の賃金の有無についても会社の制度によります。ただし、長期に働けなくなってしまった社員に給与を出し続ける会社は多くありません。
そのような場合、健康保険に加入している社員であれば、休職中は傷病手当金の支給が受けられます。具体的には、業務外の病気やケガで働けなくなってから連続3日間の待期期間を過ぎると、4日目から傷病手当金の支給対象日となります。支給金額は標準報酬月額の2/3で、最長1年6ヶ月支給されます。なお、傷病手当金は会社からの賃金が支払われていると支給されません。会社が休職給を支給しなくても健康保険に加入している社員には一定の生活保障がされると考えて良いでしょう。
復帰できない場合
では、病気やケガの療養が長期にわたり、会社の定める休職期間を過ぎても復帰できないはどうするのでしょうか。多くの会社では就業規則において「休職期間満了までに復職できない場合は退職扱いとする」と規定しているようです。これは一見不当な解雇のようにも感じますが、病気やケガの原因が業務と無関係である場合は、この退職は適法とされることが多いようです。病気やケガが原因での退職は非常に残念なことですが、働けない社員を抱え続けるのは労務管理上の負担にもなりますので、休職期間終了での雇用関係解消について就業規則に明記することは大切なことだといえるでしょう。
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私傷病休職制度のメリット
労務不能とまではいかなくても、病気やケガの治療をしながら仕事を続けたいと思う社員や、短期間の休養で回復が見込める社員など、会社側の少しの配慮で働き続けられる社員は少なくないでしょう。そういった社員の雇用を守るためにも、私傷病休職制度は有効といえます。
会社側のメリット
- 退職を予防できる
私傷病休職制度の導入等、会社側の配慮によって貴重な人材の流出を防ぐことができるかもしれません。最近では様々な業界・会社において雇用形態や働き方が多様化しており、病気やケガの具合に合わせて働ける選択肢は増えています。せっかく自社で経験を積んできた社員を辞めさせないためにも、会社に無理のない範囲で社員の労働環境を整備すると良いでしょう。
- 休職期間満了で退職させることができる
就業規則には解雇事由の記載をしなければなりません。多くの会社で「病気やケガを理由とした勤務状況の不良」は解雇事由になると規定されているようです。そのため、私傷病のために労務不能になった社員を解雇することも可能です。しかし解雇となると30日前の予告や解雇予告手当の規定を守る必要があり、体調不良の原因の一部に労働環境が認められる場合などはスムーズにはいかないかもしれません。不当な解雇とみなされた場合は労使間のトラブルのもとになります。そのための対策として、例えばある程度の休職期間を経過した後は、特別な意思表示がなくても退職できる「自然退職」の規定を整えておけばトラブルを避けられるでしょう。
社員側のメリット
社員側のメリットはやはり安心して働けるという点でしょう。病気やケガは誰しも無関係ではありません。休職制度などの配慮が無い場合、体調不良の社員が無理を重ねて病状を悪化させる原因にもなります。労働環境が整えられた職場は、社員に万一の安心感と働く活力を与えるでしょう。
私傷病休職制度のデメリット
会社側のデメリット
- 休職期間中も社会保険料は支払う必要がある
雇用保険の場合は毎月の給与によって保険料が決まりますので、無給であれば保険料もかかりません。しかし、健康保険と厚生年金については社員が休職している間も支払わなければならず、社員負担分の支払いも管理する必要があります。「社員負担分をとりあえず会社で立て替えたものの、休職期間終了後に社員が退職してしまった結果立て替え分を回収できない」といったトラブルも発生しているようです。このような状況を避けるためには、休職期間に入る前に社会保険料の支払いについて取り決めするとともに、傷病手当金の振込先を会社にして社会保険料を差引いてから社員に支給するなどの対策をすると良いでしょう。
- 社員の補充の判断が難しい
休職社員の病状が回復傾向ならば問題ありませんが、復帰の目途が立たない場合もあります。一人足りないまま業務を回すか、新たな補充人員を雇用するか判断に迷うこともあるようです。社員は一度雇用すれば正当な理由なく解雇はできないので、難しい判断となるでしょう。
社員側のデメリット
前述のとおり、会社に籍を置いたまま病気療養ができる点で、私傷病休職制度は社員にとってはメリットが大きい制度です。デメリットを挙げるとすれば、給与が減ることがその一つです。休職中は無給である会社は多く、また傷病手当金をもらえたとしても、給与の満額ではありません。また、業務に参画しないことで賞与や昇進にも影響がある会社も多いでしょう。
私傷病休職制度導入時の注意点
私傷病休職制度は会社独自の制度なので、導入する際には制度の詳細を定め就業規則に記載しなくてはなりません。対象者や休職事由、期間、賃金の有無など、基本的な項目のほか、以下の点に気を付けましょう。
休暇をとらせる基準
自他ともに病気やケガによって労務不能の状況が明らかであるときは、規定に基づいて休職期間に入ることができます。しかし、心の不調で本人からの申告がない場合は、会社側はなかなか気付くことができないかもしれません。安全配慮義務からも人事や上司から本人に休職を言い渡す必要がある場合もあります。このような状況を想定し、休職させる私傷病の基準を定める必要があります。
休職中の状況把握
休職社員の状況把握のために月に1回程度の「定期報告」や「産業医の面談」を定めておくと良いでしょう。病状や本人の仕事復帰に対する考えを確認することで、復職時の適切なサポートや受け入れ態勢を整えるための役に立つかもしれません。
復帰の判断
復帰の判断は慎重に行わなければなりません。出社して業務にあたることは少なからずストレスのもととなりますので、完治していたとしても急に元通りの業務に戻るのは難しい場合が多いです。産業医による医学的判断だけでなく、ときには社員家族の意見も取り入れ、業務内容や出社頻度を調整したうえで復帰ができるかの判断をしましょう。
まとめ
私傷病休暇制度の導入は、一見すると会社にとってメリットは無いように思います。しかし、社員が安心して働ける環境や病気やケガをしっかり治して復帰できる環境づくりは、仕事の質や効率の向上、人材の安定的な確保に繋がり、長期的にみると会社にとっても大きな恩恵を享受できるでしょう。会社運営に追われ、多くの経営者がついつい後回しにしてしまいがちな私傷病休暇制度ですが、今一度自社に合った制度の導入を検討してみましょう。