ストック休暇とは、取得しなかった年次有給休暇を積み立てられる制度のことをいいます。本来であれば2年間で消滅してしまう年次有給休暇を積み立てておくことで、長期で休暇が必要になった時に使用することが可能になります。今回はストック休暇の内容、メリット・デメリット、運用方法について解説していきます。
労務管理に便利なクラウド型勤怠管理システムAKASHIの資料はこちら>>ストック休暇を導入しよう
ストック休暇とは
ストック休暇制度とは、時効消滅した年次有給休暇の残日数を一定日数に達するまで積み立てておき、その後に長期休暇が必要になった際に使用を可能とする制度です。ストック休暇制度は、法律で定められた制度ではないため、導入している企業によって呼び方はさまざまです。失効年休積立有給休暇や有給積立制度、積立保存休暇などと呼ばれることが多いようです。
労働基準法で定められている有給休暇は、付与された日から最大2年まで未取得分を繰越すことができますが、2年を過ぎると消滅してしまいます。しかし、ストック休暇では、未取得のまま時効を迎えた有給休暇も無駄にせず、必要な休暇のために活かすことが可能です。
ストック休暇の必要性は、2008年に厚生労働省が提唱した「労働時間等見直しガイドライン」(労働時間等設定改善指針)における、「特に配慮を必要とする労働者について事業主が講ずべき措置」のなかで事例の一つとして挙げられました。これは、病気や育児など、通常の年次有給休暇だけでは対応しきれない部分に対し「特別な休暇制度」を制定することで、労働者の仕事と生活の調和の実現や労働者の健康を守ろうという取り組みです。また、ボランティア活動やリフレッシュのための休暇、裁判員休暇、犯罪被害者の被害回復のための休暇などに対しても柔軟に対応できる休暇制度を設定するべきとしています。
「特別な休暇制度」の導入事例は、企業によってさまざまですが、ストック休暇を導入する企業は年々増加傾向にあります。
有給休暇との違い
年次有給休暇は、労働基準法第39条により「業種、業態にかかわらず、また、正社員、パートタイム労働者などの区分なく、一定の要件を満たした全ての労働者に対して、年次有給休暇を与えなければならない」とされています。年次有給休暇の取得は労働者の権利であり、企業には付与の義務があるとして、付与される時期や、日数、賃金、時効期間なども詳細に定められています。しかし、ストック休暇に関しては法律による決まりはなく、企業の裁量により使用理由、時期、日数、時効期間などを決めることが可能です。また、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対しては、年間5日以上の取得が義務付けられていますが、ストック休暇にはそのような義務は発生しません。
ストック休暇の利用目的について
ストック休暇は年次有給休暇とは違い、法律で定められた制度ではありません。そのため、休暇の利用目的を企業が指定することが可能です。従業員が自由に利用目的を設定できることが理想ですが、必要に迫られた場合や休まざるを得ない場合などに制限している企業も少なくありません。主な利用目的は以下のようなものが多いです。
- 病気(私傷病)の療養
- 家族の看護、介護
- ボランティア活動
- 不妊治療
- 自己啓発(資格取得や海外留学など)
ストック休暇のメリット・デメリット
メリット1:安心な職場環境を提供できる
いくら健康な従業員であっても、長い職業人生においては何があるかわかりません。自身の病気だけでなく、子供の病気や親の介護など、さまざまな不測の事態に対応しなければならないでしょう。また、自身のリフレッシュや自己啓発のための休暇が取れる環境は、仕事の閉塞感を低減し、将来の可能性を前向きにとらえることにつながります。このように、休暇制度の充実は、安心感のある職場環境づくりに有効です。
メリット2:人材確保に有利に働く
ストック休暇制度を導入することで、従業員の働き方に配慮する企業としてアピールポイントになるでしょう。近年では、ワークライフバランスを重視する求職者は増えており、豊かな労働環境をアピールできれば、優秀な人材の確保につながりやすくなります。
また、病気や育児、介護などを理由に、やむを得ず退職の道を選ぶ従業員は少なくありません。従業員の不測の事態に柔軟に対応できる休暇制度を用意しておくことで、退職を防ぐセーフティーネットとなり、人材の流出防止にも効果を発揮するでしょう。
デメリット:コスト負担が増える
企業の規模が大きいほど、従業員一人一人の年次有給休暇の管理は複雑な作業になります。そのうえ年次有給休暇の積み立てまでするとなると、管理にかかるコストも考慮にいれなければならないでしょう。自社に合った人事労務管理システムなどを導入し、担当者の負担を減らす必要があります。また、ストック休暇を取得しようとしても、業務が忙しく休めない環境では意味がありません。余裕のある人員配備と業務の自動化などを進めたうえでなければ、ストック休暇の適正な運用は難しいでしょう。このような環境整備のためのコスト負担は覚悟しておく必要があります。
ストック休暇の導入と運用方法
ルールを明確にする
ストック休暇は企業が独自の制度として導入するので、利用目的やルールは企業が任意で決定できます。従って、事業内容や組織形態に合わせ、適切なルールを定める必要があります。特に以下の事項については、最初に定めておきましょう。
- 取得単位
- 有効期限
- 年間における積立日数の上限
- 総積立日数の制限
- 利用目的の制限
- 他休暇との取得優先順位
全日、半日、時間単位など、積み立てることができる単位と取得できる単位を設定します。
積立休暇の有効期限を設定します。無期限の場合は、総積立日数に上限日数を決めると良いでしょう。
失効した休暇のうち、年間で何日まで積み立てることができるか設定します。
年数と共に積み立てられていく休暇の総積立数に上限日数を設定します。
必要に応じ、ストック休暇の取得目的を定めます。
休暇を取得する際、年次有給休暇かストック休暇のどちらから取得するのかを設定します。基本的には年次有給休暇から取得してもらうよう定めると良いでしょう。
取得条件や手続き方法を設定する
ストック休暇の導入は労働条件の変更にあたります。従って、就業規則の改定が必要です。明確に決定したルールを明記しておくことで、労働者との不要なトラブルを回避することができます。運用方法については就業規則に明記するだけでなく、詳細なルールを別途「積立有給制度規定」などで作成しておくことで導入をスムーズに行えます。
従業員に周知する
就業規則を改定した場合、10人以上の労働者が常駐している企業においては、労働基準監督署へ就業規則の改定の届出が必要です。また、届出の際、労働組合または組合がない場合は過半数の代表者の意見を意見書にまとめ添付します。その後社内へ就業規則改定の周知が必要です。就業規則は周知後に効力が発生するため、社内での掲示、書面での通知、社内ネットワーク上での掲示で周知します。
ストック休暇の取得を促進する
日本企業では、まだまだ長期休暇の取得を良しとしない空気があります。特に小規模な組織や忙しい職場などでは、ストック休暇制度を導入してもなかなか活用が難しい場合もあるでしょう。しかし、従業員のどんな状況も柔軟に受け止め、安心して働ける職場環境の創出は、そのような企業にこそ必要です。新たな企業文化を創り出すつもりで、積極的に休暇制度を周知し、取得を奨励しましょう。
まとめ
ストック休暇は企業の任意による制度なので、自社に合った方法やルールで導入することができます。従業員にとって本当にプラスとなる制度にできれば、従業員の満足度の向上はもちろん、他社との差別化にもつながるでしょう。導入時の手間以上の効果が期待できるのがストック休暇最大のメリットでもあるため、導入を検討してみてはいかがでしょうか。