出向手当とは、出向によって発生する経済的、精神的負荷に対する金銭的補助のことを指します。キャリア形成や人事戦略のために、所属する企業の雇用契約を保ったまま、関連する別の企業に異動することを出向といい、その手当の金額は出向元や出向先の会社によって変わります。出向では、労働環境が変わるため、新しい知識習得のための労力が必要で、従業員はストレスを感じやすくなります。そのため、出向手当を充実させ従業員を精神的にサポートすることは必要不可欠です。
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そもそも出向とは?
出向とは、労働者が出向元と何らかの関係を保ちながら、出向先との間において新たな雇用契約関係に基づき一定期間継続的に勤務する形態のことです。キャリア形成や人事戦略を目的として行われることが多い傾向です。出向には出向元と雇用契約関係を維持する「在籍型出向」と、出向元と雇用関係を終了する「移籍型出向」の2種類があります。在籍出向型は出向元と出向先が出向契約を結び、出向元と労働者が雇用関係にある状態です。移籍型出向は出向元の雇用関係は解除して、出向先と新たに雇用契約を結ぶことになります。親会社から系列会社への異動だけでなく、実態的に関係性がない企業や異業種の企業間でも出向契約を結べば出向が可能です。
出向手当とは
出向によって出向者の労働条件が変化し、給与が減ってしまう場合もあります。また、労働環境の変化によって精神的に強い負荷がかかることもあるでしょう。出向手当とは、これらの負荷に対する金銭的補助のことです。厚生労働省が発表している「平成30年賃金事情調査 調査結果の概要」によると、 出向手当制度を採用している企業は調査産業計では 89 社(集計 197 社の 45.2%)で、うち在籍出向は 88 社(出向制度を採用している 89 社の 98.9%)となっています。支給額は、「定額」の企業の平均支給額が23,000円、「支給額に幅がある」企業の最高額の平均は59,000円、最低額の平均は5,300円です。
出向手当の重要性
出向手当制度を採用することで、出向者が不利益を被らないようにできます。収入面で出向者にメリットが生まれることで人選もやりやすく、出向後の定着も期待できるでしょう。出向規定に出向手当を盛り込み、出向者に出向手当を用意している旨を説明することも大切です。出向手当とあわせて出向時の給与や仕事内容、勤務時間、生活環境についても丁寧に説明し、出向者の不安を少しでもやわらげましょう。
出向のメリット
出向元
出向元が得られるメリットは以下のとおりです。
- 従業員を解雇せずに 雇用を維持し、労務費を抑制できる
- 企業間の連携や人材交流による企業力の強化を図れる
- 出向者の収入が確保できる
- 出向者が成長して帰ってくる
- 幹部候補など管理者育成の機会になる
出向元
出向者が得られるメリットは以下のとおりです。
- 出向先で新しい技術や企業風土を吸収し、出向元で生かせる
- より実践的な知識を深められる
- 視野が広がり自信がつく
- 自社に戻った際に配属先や担当業務の変更に対応できる
- 積極的に新しいことに挑戦する精神が身につく
出向先
出向先が得られるメリットは以下のとおりです。
- 企業間の連携や人材交流による企業力の強化を図れる
- 高操業に対応できる
- 出向元の社名を背負っているため、責任感や安全意識が高い人材と働ける
- 経営に直結する人材を充足することで経営基盤を強化できる
- 必要なキャリアを保有する人材を即戦力として迎え入れられる
- 求人に係る費用を軽減できる
在籍出向における賃金の支払いと各種保険
賃金の支払い
出向労働者の賃金を出向元と出向先のどちらが支払うのか、出向の目的に応じて契約時に協議する必要があります。 在籍型出向の賃金の支払い方法は以下の3種類に分かれます。
- 出向元または出向先の一方が負担する
- 出向元が給与を負担したうえで、出向先が出向元に給与分の一部または全額を支払う(逆のケースも可)
- 出向先と出向元でそれぞれ給与を負担する
出向元と出向先のいずれかが給与を全額負担する場合は問題ありませんが、それぞれ負担する場合は負担割合を協議しなければなりません。「どちらを給与の支払い窓口とするか」という点に関しては特に慎重に取り決めましょう。なぜなら「誰が」給与を支払うかによって社会保険の負担先が左右されるためです。
社会保険(厚生年金・健康保険)
社会保険は、直接給与を支払う会社での適用となります。出向先で給与を支払う場合は出向先での適用、出向元が給与を支払う場合は出向元での適用です。それぞれ負担割合を決めた場合、支払い窓口となる会社が社会保険を負担します。社会保険は会社が加入している健保組合によって保険料率が異なるため必ず確認しておきましょう。
労災保険・雇用保険
労災保険は事業所単位で保険関係が成立しているため、保険料は使用者の全額負担です。従って、 労災保険は出向先の負担となります。出向元が給与を支払っている場合も、労災保険は出向先が支払わなければなりません。一方、雇用保険は「主に給与を支払う側」での適用となります。雇用保険の負担者が出向先となったら、出向元の雇用保険の資格をいったん喪失してから出向先で新たに取得するという流れです。
まとめ
ここまで、出向や出向手当の概要、出向時の賃金の支払いと各種保険の取り扱いについて解説しました。出向は以前からひとつの雇用形態として存在していましたが、最近では、新型コロナウイルス感染症の影響で事業の一時的な縮小を行う企業が従業員の雇用維持を図るための取り組みとして注目されています。厚生労働省でも、コロナ禍における雇用維持を目的とした在籍型出向の取り組みの支援を行っています。
出向は、従業員の雇用維持だけでなく、出向先での知識や技術の吸収によって企業力の強化も可能です。出向元・出向者・出向先それぞれにメリットがあるため、この機会に検討してみてはいかがでしょうか。出向を成功させるためにも出向先と賃金の支払いについてしっかり取り決め、出向手当制度を採用して出向者のフォローを万全にしましょう。