従業員の休職は、ある日突然予告なく決定されことが少なくありません。怪我や精神疾患によって、すぐに休養が必要になった場合、引継ぎもままならない場合もあるでしょう。この記事では、休職の際に必要となる手続きや休職中の従業員への対応、引継ぎにおける注意点、復帰プロセスについて解説していきます。
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必要な手続き
企業が就業規則を整備する際、休職に関する項目を盛り込むのが一般的です。休職の条件や期間については、法律で定められている訳ではありません。自社の規定に従って、以下の手続きを忘れずに行いましょう。
- 休職願の受理
- 社会保険料などの支払方法の確認
休職を希望する従業員に対しては、休職願の提出を依頼しましょう。休職する場合、一般的には給与が支払われません。そのため、明らかな体調不良で業務の遂行が不可能である場合を除けば、企業が従業員に休職を命じることはできません。そのため、休職するにあたって、しっかりとした同意を得る意味でも、休職願は提出してもらったほうが安心でしょう。また、私傷病が原因で休職する場合は、休職願と一緒に医師の診断書を提出するルールを設けている企業は少なくありません。従業員の健康状態を把握するためにも、診断書も併せて提出してもらいましょう。
休職中であっても、従業員には、社会保険料の支払義務があります。通常は給与から天引きされていますが、休職中に給与が支給されない場合は注意が必要です。休職後そのまま退職してしまう可能性がゼロではないことを考えると、確実に徴収できる取り決めをしておく必要があります。そのため、休職中に傷病手当の支給を受ける場合は、傷病手当の受け取り先を企業に指定するという方法が一般的です。社会保険料の従業員負担分を差し引いてから、従業員に支払う形式にすれば、確実な徴収が可能です。傷病手当が支給されない場合は、従業員と相談して徴収方法を決める必要があります。
業務の引継ぎのポイント
休職に入る従業員が携わっていた業務を、後任にしっかりと引継ぐことは、事業運営にとっては非常に重要です。また、職場としては、「職場に迷惑をかけるのだから、引継ぎくらいはしてほしい」と思う人も少なくないでしょう。
しかし、精神疾患などの場合、仕事の内容や職場の人間関係が原因となっているケースは少なくありません。休職せざるを得ないほど病状を悪化させ、一番苦しんでいるのは休職者本人です。多少不便があっても寛大な心で受け入れてあげることが大切です。このような職場の優しさが、後のスムーズな職場復帰につながる可能性もあります。特に、医師による「要休養」の診断書が出ている状態では、休職者の療養が最優先にしなければなりません。引継ぎは最小限にとどめ、なるべく社内のメンバーのみで対応しましょう。また、無理に出社させず、メールや電話でやり取りをすることも大切です。
休職中の従業員への対応のポイント
定期的に連絡をする
休職には、「職務復帰できる状態を目指して、体調の回復に専念するために与えられる休養期間」という意味があります。そのため、休職中であっても従業員の状態を把握し、復帰までをサポートする必要があります。定期的な面談や電話連絡などで、従業員と話す機会をつくりましょう。もちろん、復帰を急かす働きかけは、従業員にプレッシャーを与え、症状にも悪影響を与えます。頻繁な連絡や、返信を強要する内容のメールなどは避けるべきです。連絡も家族の代行を承諾するなど、なるべく従業員の負担を低減するよう工夫しましょう。
復職に向けた相談を行う
従業員の体調が回復してきたら、復職に向けた準備を少しずつ進めていきましょう。体調不良による休職といっても、本人の性格や病状、家族などのバックアップ体制によっても状況はさまざまです。まったく同じ事案はないと考えて良いでしょう。まずは、休職者の言葉に耳を傾け、職場復帰が可能かどうか、以前と同じ業種が務まるかどうか、企業側が判断する必要があります。また、休職中は元気に見えても、復帰後に病状が悪化する可能性もあります。まずは短時間勤務や軽易な業務からスタートするなど、負担の少ない働き方を、従業員と一緒に考えましょう。
休職期間の延長などの検討
病状によっては、当初定めた休職期間を満了しても復職が難しい場合もあります。一般に、休職期間については企業側の裁量に任されており、法律による明確な定めはありません。そのため、企業は休職期間を延長することも可能ですが、休職期間の満了とともに退職させることもできます。これらのルールはトラブルになりやすいため、事前に就業規則などに定めておきましょう。
多くの企業では、傷病手当の支給期間が1年6ヶ月であることから、休職期間も同じ期間を設定している場合が多いようです。もちろん、従業員のためを思えば、休職期間は可能な限り延長してあげたいところです。しかし、傷病手当も終了し、無給で籍だけ置いている状態では、従業員の人生にプラスにならないこともあります。従業員とよく話し合って、今後のことを決めましょう。
休職からの復帰プロセス
療養して生活習慣を整える
うつ病など、精神疾患を患う人は、責任感が強く、頑張り屋な人が少なくありません。そのため、回復が不十分な状態で、復職を急ぐケースがよくあります。しかし、無理をして復職しても、かえって病状を悪化させてしまう恐れがあります。特に、精神疾患の場合、回復の判断は慎重に行う必要があるでしょう。生活リズムが整っているか、健康的な食生活をしているか、服薬は医者の指示通りにしているか、など、生活習慣にもまったく問題がないと判断できるまでは、安易な復職は危険です。面談や状況報告の際に、従業員の生活面についてもよく確認しましょう。
復職プランを作成する
休職者の病状が落ち着いてきたら、復職プランを作成しましょう。復職プランとは、復帰時期・業務内容・就業時間などについて、従業員の回復度合いを考慮しながら定めていくことです。休職に至った原因が職場にある場合、同じ条件での復帰は、再休職や退職につながりかねません。従業員が休職に至った経緯や、職場における懸念事項しっかりと整理して、どういった配慮が行えるか検討しましょう。ただし、休職者の病状によっては、具体的な復職への取り組みは、負担になる場合があります。復職プラン作成のタイミングは慎重に判断してください。
リワーク施設の利用を検討する
復職に向けた取り組みのなかで、リワーク施設の利用が注目されています。リワークとは、「Return to Work」の略語で、リワーク施設は、休職中の人に、職場復帰に向けたリハビリテーションを提供します。復職支援プログラムや、職場復帰支援プログラムとも呼ばれており、医療機関や就労移行支援事業所などで行われています。復職は、周囲が考える以上に、休職者にとってハードルが高いものです。病気の裏側には、仕事や人間関係への考え方や、自分自身のありたい姿など、さまざまな事柄が複雑に絡み合っています。それらの問題を一つずつクリアにしていくことで、精神疾患の再発を防ぎ、スムーズな職場復帰が目指せるでしょう。企業側も、休職者のリワーク施設の利用を推奨するなど、回復の助けとなる選択肢を用意することが大切です。
復職の手続きを行う
休職者の体調が回復し、生活リズムも十分に整ったと判断された場合、いよいよ復職の手続きを検討します。まず、休職者に復職の意思があることをしっかりと確認しましょう。復職願や、主治医による復職許可の診断書を受領した後、産業医との面談によって懸念事項が無いかを再度確認します。従業員に対しては、復帰後に行う業務内容や、今後の見通しなどを説明し、復職にあたって不安に思うことがないようサポートしましょう。
まとめ
人事マネジメントにおいて、従業員の能力開発など、ポジティブな事項については、将来を見据えた投資は行いやすいでしょう。しかし、将来的に何人休職者が出るかについては、想定しづらい領域といえるでしょう。もちろん、職場環境を整備し、適切な仕事量と指導を確立することで、職場が原因で精神疾患などに罹る人は減らすことができます。しかし、従業員全員がいつまでも若く健康でいる訳ではありません。休職者への適切な対処は、企業にとっては心得なければならない事項といえます。
急にメンバーがいなくなった職場の混乱を最小限にとどめ、休職者がしっかりと休養するためにも、必要な手続きや指示を円滑に行えるようにしましょう。