高度プロフェッショナル制度とは、高度な専門知識を有する、職務の範囲が明確、一定以上の年収要件といった条件を満たした労働者に対し、労働時間や残業制限の規制をなくすという制度です。成果給の意味合いが強くなるため、労働効率を向上することが可能です。一方で、時間外労働の概念がなくなるため、対象者の健康管理や休日の確保に対し、これまで以上に慎重に取り組む必要があります。今回は、高度プロフェッショナル制度の概要や対象となる要件、制度導入の流れ、健康管理や休日確保の措置について解説していきます。
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適用対象とされる業務
高度プロフェッショナル制度は、高度な専門的知識や技術や経験を要し、就労時間を就業者個人の裁量によって決定できる権限が与えられた業務に適用可能です。具体的な対象業務としては、以下の5種類が設定されています。
- 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
- 資産運用(指図を含む。以下同じ。)の業務又は有価証券の売買その他の取引の業務のうち、投資判断に基づく資産運用の業務、投資判断に基づく資産運用として行う有価証券の売買その他の取引の業務又は投資判断に基づき自己の計算において行う有価証券の売買その他の取引の業務
- 有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務
- 顧客の事業の運営に関する重要な事項についての調査又は分析及びこれに基づく当該事項に関する考案又は助言の業務
- 新たな技術、商品又は役務の研究開発の業務
適用条件
雇用主が自社員に対して制度を適用する条件として、対象とする社員には厚生労働省令で定める基準年間平均給与額の3倍以上に相当する賃金を支払う必要があります。具体的には、年収1,075万円を確実に上回ることが適用条件です。年収を計算するにあたって、賞与や能力給など支給額が一定しない賃金は適用対象外とされます。なお、1,075万円という金額は労働基準法第14条に基づいており、高度プロフェッショナル制度の新規導入にあたって厚生労働省が制定した金額です。
導入時の流れ
労使委員会の設置
労使委員会は使用者および労働者の代表人物らによって構成される組織です。高度プロフェッショナル制度を導入している事業主を調査分析し、必要に応じて改善策を提案することが主な役割です。労使委員会は3名以上で構成される必要があり、労使委員の半数以上を労働者が占めていなければなりません。
なお、労働者から労使委員を選任する場合は過半数労働組合もしくは過半数代表者が指名する形で選任する必要があります。過半数代表者とは、過半数労働組合がない企業において労使委員会を設置する際に必要となる役職です。
労使委員会による決議・労働基準監督署長への届出
高度プロフェッショナル制度を導入するにあたって、労使委員会は全委員の5分の4以上から同意を得られる導入規定を作成する必要があります。導入規定に盛り込む項目は、労働基準法第41条の2第1項第1号から第41条の2第1項第10号に準拠していなければなりません。社内において導入規定が決議できたら、労働基準監督署長へ届出を行います。決議届の様式は「労働基準法第24条の2の3第1項関係」にある「様式第13号の2」で規定されています。なお、使用者が代表して届出を実施することが必須条件となっています。
対象労働者の署名を得る
対象労働者に対して実際に制度を適用するには、労使委員会は以下の項目を事前に決議したうえで書面に起こし、対象労働者に説明を行う必要があります。
- 高度プロフェッショナル制度の概要
- 労使委員会による決議内容
- 本人同意後に適用される評価制度および賃金制度
- 本人同意を拒否した際の処遇および配置並びに同意しなかった場合に不利益取り扱いを実施してはならないこと
- 本人同意は後から撤回できること及び撤回に対する不利益取り扱いを実施してはならないこと
さらに、同意した対象労働者には労働基準法第4条が適用されなくなること、高度プロフェッショナル制度を適用する期間、そして適用期間中に支給が見込まれる給与額の3項目を記した書面を別途作成して提示する必要があります。この書面に対象労働者が署名をすることで、高度プロフェッショナル制度が適用されます。
対象業務への就業
対象労働者が高度プロフェッショナル制度の対象業務へ就業をする期間は、労働者の契約期間に応じて変動させることが妥当とされます。労働契約が1年未満であれば残りの契約期間に準拠し、残り1年以上又は期間を定めない労働契約を締結している場合、契約期間の上限は1年です。期間終了後に再契約を行う場合、使用者は必要に応じて評価制度、賃金制度を見直したうえで改めて対象労働者から同意及び署名を得る必要があります。
ただし、制度の適用期間を1か月未満にすることは、対象労働者が業務時間を自己裁量で決めることが困難という観点から認められていません。
制度を適用する際の注意点
適用する必要性の考慮が必須
労働者側が高度プロフェッショナル制度を適用する際には、残業代及び深夜勤務手当、残業時間に関する規定などが適用されなくなることを事前に理解しておくことが必須です。適用対象とされる業種の労働者は、成果を上げるまでに時間がかかるケースが珍しくありません。深く考えずに制度を適用するとサービス残業の時間が増加してしまいかねません。労働者にとっては従来通りに働く方が、収入が高く精神的にも楽であるという状況になる可能性が出てきます。
高度プロフェッショナル制度は、労働者の業務スタイルに自由性を持たせることを目的の一つとしている制度です。一方で、労働者の業務スキルや業種によって、逆に負担が増す要因を作り得ることは理解しておく必要があります。
労働者への負担軽減策が必要
使用者は、労働者の身体的・精神的な健康状態を維持する手段として、「健康管理時間」を把握することが必要となります。健康管理時間とは、対象労働者が社内外で労働した時間のことであり、労働安全衛生法に基づいた健康診断および医師面談の必要性を判断する指標になります。高度プロフェッショナル制度を導入する使用者は、「選択的措置」として、以下の4項目のいずれかを対象労働者に実施するように労使委員会で決議し、実践しなければなりません。
- 勤務間インターバルの確保(11時間以上)+深夜業の回数制限(1か月に4回以内)
- 健康管理時間の上限措置(1週間当たり40時間を超えた時間について、1か月について100時間以内又は3か月について240時間以内とすること)
- 1年に1回以上の連続2週間の休日を与えること(本人が請求した場合は連続1週間を2回以上)
- 臨時の健康診断(1週間当たり40時間を超えた健康管理時間が1か月当たり80時間を超えた労働者又は申出があった労働者が対象)
なお、どの措置をとるかについては、制度適用に先がけて労働者から直接意見を聞くことが望ましいとされます。
まとめ
高度プロフェッショナル制度を導入する雇用主は、制度を適用できる職種や条件、および労使委員会の役割への理解が欠かせません。これらの点を押さえて、労働者を体力的・精神的にサポートできる体制を構築していくことが望ましいでしょう。
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