在宅勤務を導入すると、プライベートな時間と労働時間の切り分けを労働者に委ねなければならないため、労働時間の正確な把握は難しくなります。特に、残業の取り扱いは難しく、みなし残業制度や残業の事前申告制度などを活用することが望ましいです。新型コロナウイルスの影響で制度が整わないまま在宅勤務を進めた企業もあるかと思われますが、今からでも在宅勤務の残業規定を就業規則に記載しておきましょう。今回は、在宅勤務における残業の扱い方や、残業時間を把握するための方法、残業代請求にまつわるトラブルが生じないためのポイントについて解説していきます。
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在宅勤務を実施する際の残業の扱いは、基本的に通常のオフィス勤務と同じです。しかし就業規則の規定や「最低賃金法」「労働安全衛生法」などの法令の適用に関し、いくつかの留意点も存在します。
在宅勤務でも残業は反映される
厚生労働省の「ICTを活用した在宅勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」によれば、テレワークなどで社外勤務となり正確な労働時間の算定が難しい場合には「事業場外みなし労働時間制」が活用できます。在宅勤務で事業外みなし労働時間制を利用している際にも、企業は通常と同様に法定労働時間の1.25倍の割増賃金を従業員へ支払わなければなりません。法定外労働時間が月60時間を超える場合には、割増率が1.25倍から1.5倍へ上昇します。
また自宅で業務に従事する労働者にも、「最低賃金法」により都道府県ごとに定められている最低賃金額以上の賃金を支払うことになります。この際に適用される最低賃金額は事業場が所在する地域です。
例えば、東京都の時間額最低賃金は1,013円です。都内の企業(事業場)に所属する労働者がテレワークで法定外労働時間を行う場合、月60時間未満であれば時間給は1,266円、月60時間以上であれば1,520円となります。
残業代が発生する条件
テレワークで社外から業務に従事する場合であっても、法定外労働時間に就業すれば割増賃金、つまり残業代が発生します。しかしこれには2つの条件を満たしていなければなりません。
1つ目の条件は雇用形態です。同じ「テレワーク」でも、企業と雇用契約を結んでいる場合と労働者が個人事業主である場合とでは被雇用者であるかどうかという点で異なりますが、残業代を受け取るには被雇用者である必要があります。例えば「業務委託型の業務をテレワークで行っている」といった場合では個人事業主となるため、取引先へ割増賃金を請求することは原則できません。
2つ目の条件は「就業規則に在宅勤務に関する定めが規定されており、これを遵守していること」です。特に「残業の許可制」が導入されている場合には、事前・事後に必ず上司へ残業許可を得る必要があります。許可を得ていない勤務時間は労働時間から除外することができるためです。法定外労働時間に勤務を行う場合には、必ずメールやチャットなどで上司への報告を行い、承認を得た上で残業を行うよう徹底しましょう。
残業時間を把握するための方法
使用者である企業側は、従業員の労働時間を適切に把握する責務を負っています。中でも残業時間を把握する方法としてよく利用されているのが「業務日報」です。従業員と使用者の間で労働時間・残業時間などを相互に把握し、確認することができます。
在宅勤務を行っている場合には、メール・チャットのやりとりを客観的記録として活用することも考えられます。こうした自己申告制の記録をテレワークで活用する場合、使用者は従業員に対して事前にガイダンスを行います。必要に応じて実態調査を実施し、自己申告された労働時間と実際の労働時間に乖離がないよう努めなければなりません。こうした勤務時間の管理方法については、事前にしっかりと検討を行っておきましょう。
残業代請求にまつわるトラブルが生じないためのポイント
「事業外みなし労働時間制」を導入する
労働基準法上の法定労働時間は「1日8時間・週40時間」と定められています。しかし扱う業務によっては、企業が従業員の正確な労働時間を把握することが難しい場合もあるでしょう。このような場合を想定して事前に決められた時間働いていたとみなす、「みなし労働時間制」と呼ばれる制度があります。
みなし労働時間制の中には「裁量労働制」「事業場外みなし労働時間制」の2種類があります。在宅勤務のようなテレワークを実施する企業の中でも特に労働時間の把握が困難で、一定要件を満たす場合にのみ特例として導入が可能です。
「残業の許可制」を導入する
残業そのものの必要性に関して使用者である企業の判断を挟む「残業の許可制」導入も、トラブル回避には有効な手段です。
- 所定労働時間を超えて業務に従事する場合には、その理由・必要性・予定時間を明示し、時間外労働の可否について使用者の承認を得なければならない
- 事前に承認を得ることが困難な場合には、事後に承認を受けることができる
- こうした手続きをとらずに時間外労働を行った場合、使用者は原則これを時間外労働とは認めない
このような就業規則を周知徹底することで、承認を受けない時間外労働の抑制に役立ちます。どれだけの時間残業をしているかをその都度相互に確認を行うことで、労使トラブルを防止するのです。
業務報告を徹底する
「みなし労働時間制」を利用する場合、業務をこなすために「通常必要とされる時間」を超えた時間分の残業代は支払う必要がありません。たとえ残業代の申請があったとしても、与えた業務に対して必要でないと判断される場合には申請を認めなくてすむケースもあるのです。
万一残業代の請求で裁判になった際、業務報告は情報共有に役立つだけではなく客観的な証拠としても活用できます。定期的に在宅勤務中の業務内容の報告をするよう徹底させましょう。
深夜・休日におけるメールの禁止を徹底する
メールなどでのやりとりは客観的記録として勤怠管理に活用することができます。つまり、深夜・休日など労働時間外に業務に関連する内容のメールが送られていると、「その時間帯に従業員を働かせた」と見なされてしまう可能性があるのです。
特に在宅勤務では、本来プライベートな空間である自宅から業務に従事するため「仕事とプライベートの切り替えが難しい」という課題があります。こうした点から、「メールで業務に関する指示を受けたため、時間外でもついその場で対応してしまった」ということもありえないとは言い切れません。
労働時間外の業務に関する指示や報告はできるだけ避け、同時に定期的な実態調査を行うことで企業が意図しない残業の抑制を図ることが大切です。
導入前に労働時間のルールを作って社員の合意を得る
在宅勤務のようにオフィス外で業務に従事するテレワークは、日本では比較的新しい就業形態です。そのため同じ社内の従業員同士であっても、それぞれの世代・経歴などによって認識はさまざまでしょう。無用なトラブルを避けるためにも、実施後にしっかりと成果を出していくためにも、事前のルール作りが重要となります。
具体的には、テレワークを希望する従業員と労務管理者の間で勤怠管理・労働時間・残業の有無など広範囲に関して話し合い、互いの合意を得ておくことが必要です。トラブルが発生する大きな要因の1つに、こうした話し合いを疎かにしてしまったことによる「認識のズレ」にあります。テレワークの実施後には頻繁に対面してコミュニケーションをとることが少なくなるため、準備期間の間に就業規則の中で曖昧なままになっている部分はないか、認識は双方で共有できているかを時間の許す限り確認しておきましょう。
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まとめ
テレワークを実施する上では、正確な労働時間の把握がオフィス勤務よりも難しくなります。特に残業に対する取り扱いは複雑となっているため、「事業場外みなし労働時間制」「残業の許可制」といった制度の導入での労働時間管理を行う企業も多くなっています。労使トラブルを生じさせないためにも就業規則をしっかりと見直し、ポイントを踏まえた対策を行うことが大切です。
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